「ツナ、寝たのな」


地下だから多分人工的に作られたのだろう、夕日のような紅い光の中で突然声をかけられて、思わずびくりと肩を振るわせた。
時間に応じて変化するライトは、どうやら上手くその震えを隠してくれたおかげで、気づいた様子はなかった。

それにちょっと安心してから、ハルは目の前の影を見る。

「山本、さん・・・」
ん?と首を傾げて明るい笑顔を浮かべる武を見上げて笑みを返した。

「はい、起きるまで待っていようと思ったんですけど・・・ずいぶん眠りが深いみたいで」
先ほどのシャマルの伝言はメモに残して置いておいた。
じわりじわりと暗くなっていく窓の外に合わせるように、廊下のライトがつき始める。


「・・・そっか。ま、寝るのはいいことだよな!」
「そうですね・・・」
武の言葉に笑みを返すけれど、どこかしこりが心の中から消えない。
そんなハルの様子に、武がふっと優しい笑みを浮かべた。


「本当はな・・・2人をイタリアに連れて行った方がいいじゃないかって話があったんだ」

「え?」

突然の話に、ハルが目を瞠った。
ハルの様子に、武はもちろん提案は却下されたけどな、と前置きをして話を続ける。

「やっぱりバレずに日本に移転するわけだから、人数は多すぎると困るし、イタリアに人間が集中してて・・・あっちの方がセキュリティが万全だから襲撃もないらしくて」
「っ、でも!」
思わず反論するハルに、わかってると武が笑う。

「その話題が出た時に、綱吉が嫌だって大きな声で叫んで・・・そればっか繰り返して寝ようとしてくれないから、結局その話はお流れになったんだけどな・・・」
「ツナさん・・・」
「俺らは、イタリアっていう環境がツナの負担になってるんだと思ってたけど、そうじゃなかったのな・・・。京子とハルがいるから、日本に帰る意味があったんだって」

その言葉に思わず何か口から叫び声が溢れそうで、ハルはぐっと唇を固く閉じた。
息が逆流して少し苦しい。


「・・・山本さん・・・」
「ん?」
きょとんと首を傾げた武に、ハルはぎゅっと拳を握って泣き笑いを浮かべる。

「ハル、14歳より前のことは・・・あまり覚えてないんです。ハルも・・・三浦ハルも、ツナさんがいるから意味があるんです」

毎日思い返さない日なんて無かった。
何か小さなきっかけを見つけては毎日頭の中に姿を浮かべて。
綱吉がいない思い出に、意味なんてなくて。

それほど好きだから。


「傍にいたいと願ってもいいですか・・・?」
「・・・ああ。ツナもハルと京子を必要としてるのな・・・だから、傍にいてやってくれ」

そうポンと頭をなでられるけど、違うんです、山本さん。
ハルはこの今傍にいたいんじゃなくって、これからもずっと傍にいたいんです。

ツナさんがマフィアとして復活しても、ずっと。


「・・・はい」

でも、怖い。
誰かにそうしてもいいって許してほしい。
傍にいられる、理由がほしい。


だから。





私は、闘います



( 貴方の傍にいる、その権利を得るために )