「えっと、敵は、複数なんですよね」

自分の今もっているカードを、ひっそりと復唱して確認する。
綱吉の死亡の情報を流して出方を見る限り、複数の可能性の方が高いらしい。

「ツナさんは、今極度の神経衰弱に陥っている」

大分回復しているようには見えるけれど、まだ精神不安定なところが多くて、到底戦いには出られないらしい。
自己防衛の眠りは、まだ治らないのだとシャマルが嘆いていた。

「一樹さんは、イタリアで死んでいる」

あの暖かな屋内庭園で絶対の温度差を持つあの墓標。
その名前が上がると誰もが口を噤んで、言うのを躊躇った。
イタリアで誘拐されかけ、情報を流すのを阻止するために自殺した。

「情報を流したスパイは、まだ見つかってない」

聞いてまわっても、口を開けば綱吉への忠誠が溢れんばかりで。
どうしてもこの人たちが裏切りを行ったようには思えなかった。


「・・・あ!一樹さんが情報を持ち歩いてて、それをとら・・・れる前に壊すなりなんなりして阻止しますよね・・・」

ツナさん達だって調べたでしょうから、自殺は間違いないんでしょうし・・・。
なら、それを見られないようにしてから自殺するべきだろう。

「というか、そんなもの持ち歩きませんよね・・・」
極秘だったのだろうし、綱吉達が選びに選んだ人選だから、きっと綱吉に忠誠を誓っていた人だろうから。
でも、そうすると壁にぶち当たる。


「・・・じゃあ、情報はどこから漏れたんでしょうか・・・」


それが問題。
というか、ハルにわかる程度ならば綱吉達はすぐにわかるだろう。

「でも、誰かが情報を流してないと、ツナさんたちがイタリアに行くことはバレないんですよね・・・」
流石に会議を誰かに聞こえるような場所でしていたなんてことはないでしょうし。
事が事なだけに、たぶんそういう対策はしっかりしていると思う。


「・・・はひーっ!頭痛いです・・・!」

ボンゴレの壊滅なんて大きすぎる魚を釣るには、ハルには知識も何も無かった。
もう少しマフィアについて色々と知っていれば別だったのだろうけれど。



「ハルちゃん?」

「はひっ!」

突然声をかけられて、びくりと跳ね上がった。
振り返ればそこにいたのは京子で、ハルは異常に驚いた自分に頬を染めて反省する。

「きょ、京子ちゃん・・・」
「ごめんね、驚かせて。今、大丈夫?」
「い、いえ平気です・・・大丈夫ですけど」

ここにいると料理くらいしかすることはないし、外にも出れないから当然予定なんてものはない。
それでも聞いてくれた京子の笑顔を返すと、あのね、と京子が口を開く。


「お兄ちゃんが、皆でカラオケをしないかって」

「・・・カラオケ?」

その名称に、思わず開いた口が閉まらなかった。
ここって、マフィアの本部なんじゃなかったんですっけ・・・?

いえ、いいんですけど・・・。


「はひ、行きます。カラオケ楽しみですね」
同意して笑う京子に笑顔を返しながら、ハルはベットから立ち上がった。


手のうちのカードは、まだ足りない。





解決の糸口さえも見えない



( こんなんじゃダメだってそう分かっても )