「ほ、本当にいいの?」
「いいんです!お願します!」

戸惑ってハルをうかがう京子に大きく頷くと、京子はまだ渋りながらうんと頷いた。
一度息を吸って、大きく吐いた。


「京子ちゃん・・・」
「ん?どうしたの?」

準備をしていた京子が、きょとんと首を傾げた。
そんな京子に少しだけ自嘲するように笑みを浮かべて、ハルは天を仰いだ。

「ハルは、甘えていたんだと思います。戦えないからなんて言い訳して、役に立たないからなんて言い訳して、置いて行かれたことを正当化しようとしていました」

綱吉は悪くない、自分が悪いんだとまるで悲劇のヒロインぶって。
そうじゃなかった。

確かに綱吉は悪くないし、自分が悪かった。

「挑戦することすら諦めて、ハルは日本にいることを選んでしまったんです」

じわりと目の前がゆがんで、つんと鼻が少しだけ痛い。
「諦めたハルがもう一度挑戦しようなんて、おこがましいかもしれません・・・でも、ハルは」

「ハルちゃん」

じわりじわりと歪む目の前に耐えきれなくなって、ぎゅっと目を瞑ったハルを後ろから抱き締めるように京子がそっと呼んだ。
その手の暖かさに、また零れる。


「私ね、ハルちゃんが凄くツナ君のこと好きなのずっと知ってたよ。だからね、いいんだよ。たとえ一度諦めても、もう一度挑戦したっていいんだよ」

そっと背を撫でる手が静かに上下する。
いいのだと許可してくれる声が、柔らかに耳を擽る。

「私も・・・ツナ君のこと好きだった。でも、ツナ君の日常が怖くって、目を逸らしたの。ツナ君が好きだって気持ちだけじゃ、頑張れなかったくらいにしか、ツナ君を好きじゃなかった」
「京子、ちゃん・・・」
「でも、ハルちゃんは違うでしょう?目を逸らさないでどれだけ辛いことがあっても、傍にいたいって思ってるから頑張ってるんでしょう?」

背中から優しく抱きしめてくれる腕に、ぼろぼろと雫がこぼれる。
身勝手な理由。でも、自分の中でこれ以上にない傍にいる理由。

「っ・・・はい、ハルは・・・ハルは、ツナさんが好きなんです・・・好き、好きなんです・・・一緒にいたい・・・」
「うん。ハルちゃんは今、私よりたくさんのことを知ってるんだよね?それでも、傍にいたいんだよね?」
「・・・はいっ!」
思わず震える声のまま返事をして、また涙がこぼれる。

そっと離れていく体温と同時に、ゆっくりと振り返った。
「じゃあ、頑張って!」
「はい!」

笑顔の京子に促されるまま、京子に背を向ける。
それからほどなくして始まった離別の音に、ゆっくりと耳を傾けていた。

「でも、本当にいいの・・・?だって、別に必要ないじゃない」
「いいんです・・・気持ちの問題かもしれませんけど・・・」

音が響く。

戦えないことに甘んじて、求められるがまま何も知らないふりをして、傍にいれる機会を捨ててきた自分。


さよなら―――





弱虫だった私



( 今、ここで別れを告げよう )