「セオさん!!」
「なに、・・・は、ハル・・・!?」

後ろから飛びつくと、振りかえったセオがぎょっと目を見開いた。
それに苦笑してから、それよりもと眉を寄せた。

「セオさん、聞きたいことがあるんです」
「い、いや・・・っていうか、それ・・・」
「気にしないでください」

何を見ているのかは分かっているから、にっこりと笑みを返した。

それから、あ、と思いついてそれに手を伸ばす。
「すいません、聞くついでにこれも借りますね」
「は・・・?ま、まてハル!」
「ちゃんと返すから安心してください」
「そういう問題じゃない!!返せって・・・」

慌てて腕を伸ばしてくるセオの手が届かないように、ずぼっと首のところから服の中に突っ込んだ。
あー・・・と言わんばかりにセオがその動きを目で追う。


「質問があるんです」
「いいから返せ、ハル。それはそんな簡単に扱うもんじゃ」

「この抗争の突破口だとしても、ですか?」

ひゅ、と音がしてセオの息が止まった。
鮮やかなエメラルドグリーンの瞳がハルを移したまま大きく見開かれた。


そんなセオの表情にハルは笑みを浮かべて、もう一度繰り返した。

「質問があるんです」

返事はない。
セオの顔がどこか苦虫をかみつぶしたような顔になっていく様子を見て、続きを促しているのだと悟る。

「怪我、したんですね・・・」
「・・・え?あ、ああ」

何を言われると思っていたのかは分からないけれど、突然の質問にセオは首を傾げた。

「・・・死人は、何人出ましたか?」

ハルの言葉に、かっと何かが競り上がって、セオは僅かな苛立ちを声に乗せて発した。

「何をっ・・・!そんなの!!――――」
そのまま叫ぼうとして、思わず言葉が止まった。

セオの眼の前で、ハルはやっぱりと言わんばかりにセオを見上げていた。

思い返す。
この人数で、ましてやイタリアで殺された一樹ですら墓が作られている状況で、欠員など明らかにすぐにわかる。

それなのに。


「誰も、いないんですね・・・?一樹さん以外」

はっきりと言葉にされて、はじめて気づく異常性。
明らかにおかしいというのに、誰も気づかなかったのだろうか。

「・・・誰も、死んでない」

一樹・オークウッド・新崎以外、誰ですら。

敵の目的を考えれば、鮮明に浮かび上がる歪なまでの異常。
けれど、その敵の目的があったからこそ、この閉鎖された環境だからこそ、誰も気づかなかった。

通常であれば、絶対に気づいていた・・・。

「ブラッド・オブ・・・ボンゴレ」
通常、と違うのは綱吉の超直感が働いていないこと。
ボンゴレが異様なまでに依存し続けてきた、その能力。


「セオさん・・・もう一度確認します」

ハルがエメラルドグリーンの瞳を見詰めたまま、口を開いた。





“彼等”の目的は?



( その鮮やかなほどに鮮明に浮かび上がる歪なまでの異常を作り出してでも、叶えたい目的は本当に )