一気に目を見開く面々に、ハルは少し汗の浮かぶ手をぎゅっと握った。 「は・・・?何言って、」 「ああ、若干語弊がありましたね。・・・敵の目的は、ボンゴレという組織の壊滅ではありません」 何を言い出すんだとハルを見つめる綱吉達に、ハルは優しい微笑みを浮かべた。 銃を持たない方の手に浮かぶ汗を、そっと拭う。 「セオさん、この抗争の死亡者は、何名ですか?」 「・・・何で俺に振るんだよ・・・胃、痛・・・・・・・・・ぜろ、名です」 唯一後ろにいるセオに声をかけて、その返答にハルは満足そうに微笑んだ。 リボーンが強く眉間に皺をよせ、恭弥が下唇をかみしめていた。 「おかしいです、おかしいですね?ハルと京子ちゃんが誘拐されそうになった時も、いっぱいチャンスありました」 確かに精鋭として選ばれたのだから実力はあるのだろうけれど、敵が銃でボンゴレの人間を殺す機会はたくさんあった。 けれど、殺さなかった。 「・・・ボンゴレという組織を壊滅することが、相手の目的じゃないから、か・・・?」 リボーンの言葉に、ええと返事を返す。 「ボンゴレを壊滅させることが目的ならば、生かしておく必要はありませんよね?ハルと京子ちゃんをあえて誘拐する必要なんてありませんでしたよね?」 ボンゴレのボスをおびき出してさっさと殺して一気に士気を削ぐという目的もあるといえばあるけれど、それはとりあえず置いておく。 とりあえず全てつぶすのが目的ならば、あえて誘拐にこだわる必要なんてない。 「でも、それが全てツナさん達を限定して精神を追い詰めるという意味であれば、十分意味を持ちますよね?」 大切に思ってくれていることは知っていますから。 たとえばハルと京子が捕まったならば、綱吉達は自分を責めて責めて、必死に助けに来てくれるだろう。 きっとそれは、心に大きな傷を負うだろう。 「・・・つまり、敵の目的は“ボンゴレ”じゃなくて、“僕たち”だ、ってこと?」 綱吉達の所属するボンゴレを狙うことと、ボンゴレに所属する綱吉達を狙うことは、一見似ているようで大きく違う。 きっと、ブラッド・オブ・ボンゴレがあれば気づけた事実。 「だって、殺すより、傷つけられて生きて帰ってきた方が、実感が強いでしょう?」 綱吉達の部下が傷ついて帰ってきたら、綱吉の心は傷つく。 その傷がまだ癒えなくても、それでもまだ戦おうとするだろう彼等の姿に、綱吉はまた傷つく。 生きている喜びと同時に、護れなかった辛さと、それでもまだ戦おうとする彼等に報えない自分に傷つく。 それは死で帰ってくるよりも、何重にも綱吉を傷つけた。 「ツナさんは怪我をした部下の人たちを見て思うはずです。自分がこんな状態じゃなかったら・・・って」 否定できない・・・というよりも、疑うまでもない事実に、綱吉はぐっと息をのみこんだ。 傷ついた部下たちを見てそう思ったことは、計り知れない。 「セオさんもそうですけど、ツナさんのことが好きだから、怪我が完全に治りきる前に仕事に戻っちゃうんです」 「・・・否定できないな・・・」 そうハルから顔をそむけたセオのスーツの下には、まだ包帯がのぞいていた。 「みんながこんなに頑張ってるのに、俺はまだ何にも出来ない・・・そう思う気持ちはツナさんをツナさんが追い詰めます」 何という悪循環。 たった一度の死では終わらない、繰り返すじわじわとした苦痛。 ボンゴレではない、綱吉達が目的だからこそ、あえて生かしていた。 「でも・・・」 ふいにクロームが呟いた。 そうなると、疑問が浮かぶ。 「・・・だけど、なら、なんで・・・」 クロームの言葉を受け継いで、武がハルを見た。 そう、なら、どうして。 「一樹・オークウッド・新崎は殺されたのか」 死のない抗争で、たった一つの死。 |