「つまり、敵は複数ではなく、単数の組織に・・・いや、ドンを失った組織だから、集団と称した方が適切かな・・・単数の集団によるもので、敵の狙いは“ボンゴレ”ではなく“沢田綱吉達”・・・情報は、一樹の奪われた脳から取られた」

敵の特定ができた。

綱吉が死んだという情報を流した後沈静化していたのは、敵を複数に見せかけるためのものかもしれない。
探せば探すほど見逃してきた違和感が、ハルの話に沿うように現れる。

超直感に今までどれほど依存してきたかを見せつけられるような気分だった。


「・・・でも、」

確かに筋は通る。
一樹以外誰も死なない理由にはなるし、超直感の損失をうまくついた作戦だと思う。

けれど、

「あまりにも証拠が足りねぇよな・・・」

綱吉の超直感に絶対の信頼を持っていたのだと、そう思いしらされる。
例えば綱吉がこの抗争をおかしいと気づき、敵を特定するのならばあまり証拠がなくても信じただろう。
超直感によってそれだけの実績をあげてきたから。
だからこそ、それがうしなわれた瞬間、動くのを恐れてしまう。

笑い飛ばすにはあまりにも筋の通った話。

けれどそれで部下を率いて全面で動くには、あまりにも証拠の少ない話。


顔を真っ青にしながらも、それでも尚自己防衛の眠りにつかない綱吉の姿を、じっと見つめていた。
真っ青に、色すらないほどに顔から血の気を引かせた綱吉は、けれど倒れることはなく。

そんな綱吉に、ハルがゆっくりと口を開いた。

「ツナさんが、決めてください」
静かな声に、綱吉がはっとしたようにハルを見つめた。

「この話がそのとおりだと思うのならば、命令を、してください」

それは同時にハルのいままでの話が有益であると認めることになる。
ハルの功績を、認めることになる。

「馬鹿げた話だと思うのならば、捨て置いてください」

それは同時にハルのいままでの話はなくなって、功績は存在しない。
この会議はもちろん幹部だけではないし、綱吉達の部下もいる。


この話が有益で、その通りだと決めて動けば、ハルを元の生活に返すことは難しい。
幹部ですら気付かなかったこの抗争の本来の意味を見つけ、ボンゴレの危機を救ったと認めることになるのだから。
元の生活に戻し、もうマフィアに関わらせないなんてことは、あまりにも拙い。

きっと、本人はそれを認めないだろうから。

だから、最後の選択。

彼女はこれだけ大きな餌を手に、綱吉と交渉を持ちかけているのだ。
傍にいる権利をかけて。


「ああ、でも・・・ひとつ言っておきます」
ハルがそう言って、柔らかな笑顔で微笑んだ。


「たとえ捨て置かれたって、それでもどうにかしてボンゴレファミリーに入ってやります。ツナさんの、傍にいます。・・・もう、諦めません」

そう微笑んだハルは、18歳のときに日本で待っていると笑った笑顔よりも強く強いそんな笑顔だった。





どちらか、ひとつだけ



( 私が傍にいることを許容してこの抗争を終わらせるか、私が傍にいることを拒否して終わらぬ抗争に身を捧げるか )