「ハルはツナさんが好きです」

少し続いた沈黙の後に、今更と言えばあまりにも今更な言葉に、綱吉は眼を見開いた。
そう何度も言ってくれていたのは14歳のときから知っているし、泣くハルの腕を振り払った18歳の時だって聞いていた。

「ハルは好きっていうのは、相手のために尽くすことだと思っていました。・・・いいえ、確かにそれも好きって感情なのかもしれません」
ハルは、そんな好きの綺麗なところばかりを見てきました。
「好きってもっと辛いこともあって、苦しいこともあって、好きだから許せないこともあって、好きだから逆らってでもしたいことがあって」

3年間、ずっと考えていた。
毎日欠かさずにしたためていた手紙を書くたびに、その想いは募った。

「ハルはツナさんが好きだから、卑怯なことだってしちゃいます。ツナさんでも・・・ツナさんだからこそ、ハルの邪魔はさせません」

だって、だって。
ハルは気づいてしまった。

毎日毎日綱吉のことだけを思って手紙を書く毎日で、気づいてしまった。
ううん、気づいていたけれど、諦めた瞬間遠くに放り投げてしまったそれが。
それでもまだ胸の奥にあるのだとういことに、気づいてしまった。

「無理な話なんです」

ハルの言葉に、きょとんと綱吉が目を瞠った。
そんな綱吉に微笑んで、綱吉のいない日々を思い出す。
毎日毎日手紙を書いては、泣いていた。

「ハルはもう14歳より前のことなんて覚えてなくて、毎日毎日ツナさんと一緒に帰りたいー!とか、ツナさんと一緒にお出かけしたいなーとか、ツナさんに可愛いって思ってほしいなーとかしか考えてなかったんです」
綱吉の頬が赤く色づいていることに、ふふっと微笑んだ。
「そんな風にハルの日常は毎日ツナさんだらけで、ツナさんがいない3年間だってツナさんのことだらけで」

毎日泣いて、毎日綱吉のことを思って。
そんな自分が、きっと無理な話なのだ。


「本当に、無理な話ですよ」
思わずおかしくて笑みが浮かぶ。


「ツナさんのいない幸せなんて、ありえないんです」


一度諦めてしまった時に、そんなことはないと逃げたくて否定してしまった。

けれど、もう逃げない。
もう諦めたりしないから、その答えを否定しない。

傍にいる苦痛よりも、傍に居れない苦痛の方が辛くて辛くて仕方がなかったから。
誘拐されるなんて怖さよりも、綱吉が傍にいないのだと認識することが怖かった。
毎日手紙を書くたびに傍にいないことが、辛くて仕方がなかった。

「だから、ハルはもう逃げません。もう諦めません。・・・今度は、ツナさんが諦める番ですよ」

ハルの執着の強さに諦めて、ああもう仕方がないなって受け入れてやってください。
きっとこれは傲慢な考えで、勝手で、わがままかもしれません。
でもそう思ってツナさんのためだとあきらめられるほど、少ない想いじゃなかった。

身を焦がすように、強い思いだから。


「もうこれからどうやってでも傍にいようとしますから、この辺で諦めてください」

さぁ、選んでください。
差し出す手を取るか、拒絶するか。

それでも私は押しのけようと伸ばした手を掴んでみせるけれど。


「さぁ、どうしますか?」





勝負はもう見えていた



( 私が負けるという結果は、まずあり得ない話 )