じっと、誰もが綱吉の答えを待っていた。 例え証拠がそろわなくても、超直感が無くても、それでも綱吉の言葉になら従うほどに、綱吉に忠誠を誓っていた。 綱吉の答えなら必ず従うのではなく、綱吉が考えに考え抜いた答えに従おうと、そう決めていた。 だからこそ、誰も綱吉の答えを急かすことなく、待ち続けた。 同時に、誰もが綱吉の言葉を信じていた。 「・・・俺は、」 そう呟いた瞬間、何かが体を駆け巡る。 その感覚が何か分からなくて、内心で首をかしげて、漸く分かった。 ああ、かえってきた。 じわじわと込み上げる懐かしい感覚に身を委ねる。 頭の先からつま先まで冴えわたるようなその感覚は、ひどく久しい。 首の後ろを何かが走るように通り過ぎ、ほんのわずかに身を震わせた。 瞳を閉じたままその感覚を感じながら、ゆっくりと目を開いた。 目の前の、じっと手を差し出すハルを見る。 一体、何時の間にあれだけ聞いて考えていたんだろう。 今まで普通に過ごしてきたハルが知るには、きっとあまりにも重い事実だっただろう。 脳を取り出して、なんて考えただけでも吐きそうなくらいなのに。 それなのに、綱吉を好きだという思いだけで、耐えていた。 好きだから傍にいたいという、そんな当たり前すぎるほどの想いのために。 戦うことなんてできないのに、銃なんて持って、そして自分に向けて。 ただ、綱吉を好きだという思いだけで。 「ハル」 目の前のハルの名前を呼ぶと、びくりとハルが震えた。 自信満々に笑っているくせに、不安の表情が消えない。 選ばれなくてもあきらめないなんて豪語したけれど、きっと選ばれないことが怖くて怖くて仕方がないのかもしれない。 「・・・はい、ツナさん」 それでも声を震わせることなく、微笑みながら返事をした。 毅然と背筋を伸ばし、微笑むハルに、今度は自分が諦める決意をした。 こんな強い想いに、勝てるはずなんてない。 「後悔しても、逃がさないよ?」 「え、」 ハルが目を見開くよりも早く、その手を掴んで引き寄せた。 ふわりと香る柔らかい匂いを胸いっぱいに吸いこんで、まるで安定剤のように抱きしめた。 それから、足の先から頭の先に走りぬけるその感覚に、身をゆだねた。 失ったんじゃなくて、ずっと持っていたんだ。 俺が、知らないふりをしていただけで。 「敵はあんまり多い感じはしない。大分失敗するたびに頭の爆弾使ってたみたいだからね。さっきのハルの話に真実じゃないものはない」 突然そう話し始めた綱吉にぽかんとする武達を見やって、にぃっと笑った。 まだ精神が弱っていないころ、よく浮かべていた笑みだ。 「出撃準備。・・・俺の勘を信じるなら、だけど」 そうして超直感を使うときのお決まりのセリフを言うと、ぱぁっと輝いた笑みを浮かべる全員に、綱吉はボンゴレ十世の笑みを浮かべた。 ぐらつきそうになる心は、腕の中の柔らかな感触が支えてくれた。 嬉しさを堪え切れないと言わんばかりの表情を浮かべる面々をゆっくりと眺めていく。 あまり起伏の激しくないリボーンや骸や恭弥には、もうちょっと喜んでくれてもいいのに、と苦笑した。 まぁきっと、内心で盛大に喜んでくれているんだろうと想像しておく。 腕の中の存在を片腕で強く抱きしめて、綱吉はまっすぐに前を向いた。 「さ、今度はこっちの番だ」 |