言わなくちゃいけないって思ってました。
どうやって告げたらいいのか分からなくて、後回しにしてました。


だけど、もう時間が迫ってるんです。




「お父さん、お母さん。お話があるんです」

いつもと同じ風景。
お母さんは食器を洗い終わったばかりで、お父さんはソファに座ってテレビを見てる。

当たり前の、風景。


「ハル、どうしたんだ?」

ハルが真面目な顔をしてるせいか、お父さんが首を傾げました。
お母さんがハルを心配そうな目で見ています。

でも、唇はしっかりと閉じて、目を開いて、まっすぐ二人を見ます。
じゃないと、泣き出しそうなんです。

「ごめんなさい。ハルは、高校を卒業したらイタリアに行きます」

「え?何言っ」
「ごめんなさい、お父さんお母さん。もう二度と、普通には帰って来れない場所に行きます。そのための準備も、済ませてしまいました」


ごめんなさい、ごめんなさい。

お父さん、お母さん。ハルは、イタリアに行きます。
イタリアにいるツナさんのところに行きます。


「止められたって、閉じ込められたって、ハルは行きます。絶対に行きます。お父さんとお母さんの安全のために、ハルはほとんど帰ってくることは出来ません。ごめんなさい。親不孝でごめんなさい」

リボーンちゃんにもらった銃を、二人の目の前に置きました。
ゴトリ、と重たい音がする、だけど小ぶりな銃。

人の命が奪える、銃。


「ハルは、これが普通にある世界に行きます」


もう、覚悟は決めました。

イタリア語の勉強もしました、銃の練習だってしてます、知識だってたくさん詰め込んでいます、それ用のスーツだって買いました。

お父さん、お母さん、こんな娘でごめんなさい。


「な、何を馬鹿なことを言ってるんだっ!そんなつまらない冗談は止めなさい!」

「―――お父さん、お母さん」


怒っている顔をしているお父さんと、信じられないという顔をしているお母さん二人を見て、ハルは頭を下げました。

ごめんなさい。本当にごめんなさい。


「ハルには、好きな人がいます。平和も、安心も、喜びも、楽しさも、学校も・・・お父さん達も、置いていけるくらいに、大好きな人がいます。その、人は・・・とても優しい人だから、一番苦しむ人だからっ、その人がハルを好きにならなくても、傍にいてあげたいんです」

泣かないって決めてたのに、結局泣いちゃいました。


「大好きなんです。今まで恋をしたことはあったけど、こんなに強く思ったのは生まれて初めてなんです。好きになってもらえなくても良いから、それでも何とかしたいって思ったのも、初めてなんです。好きすぎて、どうしたらいいのかわからないくらいに、大好きなんです」


そんな人の心が痛みに慣れていくのを、見過ごせないんです。



「ハルは、イタリアに行きます」


お父さん、お母さん、今まで育てて愛してくれて、ありがとうございます。
こんな娘で、ごめんなさい。

「ごめんなさい、お父さん、お母さん。ハルは、絶対に行きます。ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい」


お父さん、お母さん。




「さようなら」





さようならの、覚悟



( ごめんなさい、ごめんなさい。でもどうか、私があんな奴と出会わなければなんて、それだけは思わないで )