「―――・・・どうしたんだろ、ハル・・・」 ハルの去って行った扉を見て、ポツリと呟いた綱吉の言葉にリボーンはがくりと肩を落とした。 「・・・鈍い」 気付け、この馬鹿。と思わず自分らしくない悪態をついてしまって、ちっと小さく舌打ちをする。 「お悩みのところすみません、ボンゴレ。カサブランカ嬢の情報を入手してきましたよ」 「はやっ!ちょ、お前まだ一分も経ってないんですけどっ!!」 皿を割って片付けると箒を取りに走って行ったハルですら帰ってきてないのに! そう綱吉が叫ぶが、当の骸はそんなことどこ知らぬ風といわんばかりに、にこりと笑う。 仕込んでたんだ・・・と綱吉はその情報入手の方法に思い至って、仕方がない奴だとがくりと肩を落とした。 「まだカサブランカ嬢のことでお悩みだったんですか?」 「いや、違うけど・・・」 頭の中にもう一度さっきのハルを思い浮かべる。 ・・・やっぱり、泣いてた気がするんだけどなぁ・・・。 どこか遠くを見ている綱吉の意識を取り戻すかのように、骸は一つ咳ばらいをした。 「カサブランカファミリー7代目、ダリオ・カサブランカの娘、ルーナ・カサブランカ。父親の血は一滴も入っていないかのように似てませんよ」 というが、骸がそのルーナ・カサブランカの写真を見せるような動作は一切なかった。 こいつ、あとのお楽しみですとか言って、見せる気はないんだな? 「まぁ、美女に分類されるんじゃないですか?僕の可愛いクロームにはかないませんが」 「あー、はいはい」 この手の発言は、未だに本気かどうか超直感を駆使しても不明なため、今では流すようにしている。 「それは置いといて、性格は甘やかされて生きていたので、」 「・・・我儘ってことね・・・」 「贅沢で苦労知らずってところですね」 「うわー」 綱吉はゲンナリと手のひらで額を押さえた。 断るにしろ、そんな人間と逢わないといけないということが、憂鬱にさせる。 この世界に入って、いかにも令嬢な人間とは何度もあったことがあるけれど、正直何度堪忍袋の緒が切れかけたことか。 「ああいうタイプって苦手なんだよな・・・」 自分が関わってきた女性が芯の強いタイプばかりだったから、なおさら。 ブランド物やいかにもな商品にはあまり興味がないし(自身を輝かせれば宝石なんて無価値よ、と某毒サソリは熱弁していた)。 そんな彼女たちの我儘といえば、月に一回でいいから一緒にケーキを食べに行こう、という可愛らしくささやかなものだったし(その時、何度ケーキ屋ごと買い取ろうとしたか数えきれない)。 「あー・・・どうしよ。ドン・カサブランカを怒らせて面倒事になってもなぁ・・・」 はぁ、とため息を吐いた。 「受けちまえばいいじゃねぇか」 「いやいやいや。何言っちゃってんの、リボーン」 家庭教師であり、今ではボンゴレの幹部として働いているリボーンが、にやりと笑う。 「別に正妻にするほどの相手じゃねぇが、愛人にしておくには良物件だな」 「俺愛人とか嫌いなの知ってるだろ!?」 生まれも育ちも、一夫一妻の日本で過ごしてきたんだぞ!と叫ぶ綱吉に、じゃあ、とリボーンが人差し指を立てた。 「かなりベタだが」 「へ?」 にぃっと、あまり歓迎したくない微笑みをリボーンが浮かべた。 「正妻候補でも立てるか?」 |