兎に角無自覚に天然に口説きまくる綱吉をブティックに押し込んで、悩みに悩んだ末に選び出したドレスと共に帰宅して。 顔を真赤にしながらも真っ青にしているハルに、雲雀はため息と共にハル特製の紅茶を飲みこんだ。 「で、何で僕のところにくるの」 「そういいながらお菓子食べてるじゃないですか・・・って、そうじゃなくて、そうじゃなくて!ああもう、ツナさんってば酷いんですよぉっ!!あの無自覚天然タラシを何とかしてください!本当もうアウトローですよ!ツナさんにこの言葉を言うとは思いもしませんでしたっ!!アウトローっ!!」 「うるさい」 ピシャン、と涙目のハルを切り捨てて、雲雀は好みの甘さで整えられたシフォンケーキをフォークで一口サイズに切り分けて口に放り込む。 口に入れた瞬間に広がるふわりとした香りと弾力のある食感は、きっとプロ顔負けだろうと思う。 少なくとも、滅多にお菓子を食べない雲雀が好んで食べるほどに彼女は味の好みというものを知りつくしていた。 昔綱吉の部屋に死体を引き取るだのなんだので部屋に入ったときに見たあの屋形船が物語るように、彼女はものすごい凝り性なのだろう。 無駄に変な方向にそれが発揮されているような気もするが。 「よかったじゃない。似合わない色はないっていわれたんでしょう?」 「それは嬉しいですけどっ!その後、こう言ったんですよっ!!」 と顔を真赤にして惚気・・・もとい、続け始めたハルの言葉は、要約すると、 「ほら、だってハルって髪も目も黒曜石みたいな黒だし、肌も白いし、美人だし可愛いし。なんか昔家庭科の授業でしたけどさ、黒ってどんな色と組み合わせてもバランス良いんでしょ?あ、あと白も。黒と白って、まんまハルだし。肌が白いから白は合わないのかなーと思って考えてみたんだけど、ほっぺとか赤いから白着ても似合うんだよね。いっそのことレインボーは似合わないだろうって思ったんだけど、なんかバランス良ければ似合う気もしてさぁ・・・ドドメ色とかもきれいに着こなしそうだよね。淡い色も肌の白さと調和して綺麗だろうし、原色とか着ても黒髪と白い肌と綺麗に合うと思うんだよね。そう考えると、本当にハルって何を着ても綺麗だと思うんだよ」 ということである。 その言葉はものすごい褒め言葉だけれど、彼を好きな彼女にとっては憤死寸前でしかない。 「昔のツナさんならこんな言葉絶対恥ずかしくて言えませんでしたよぉっ・・・!今のツナさんはもちろん格好いいですけどっ!でもでも、正直今のツナさんは天然タラシっぷりに磨きがかかりすぎですっ!!これがブラッド・オブ・ボンゴレなんですかっ!?」 絶対違うと思う。 と雲雀は断言することができなかった。 これがまだハルのみに発揮されるスキルであるならば、無自覚に彼女のことを好いていて、そうして発揮される天然タラシなのだろうと納得できていた。 だがこの類は彼女のみならず守護者にも適用されるスキルなのである。 無論、程度は彼女のと比にはならないほど弱いものである・・・と思いたい。 「むしろブラッド・オブ・ボンゴレだって納得できるものがある方がいいね・・・」 ふ、と雲雀は思わず遠い目をした。 あれは以前パーティ会場に赴いて見せしめをすることになった時だ。 あまりそういうことに乗り気ではないが必要性を知っていた綱吉は直前までふてくされていたが、どうやらそのパーティが中世風の格好をしてくるというパーティだったらしくそれに合わせた格好をしてきた雲雀に、綱吉の眼が輝いた。 それはもう、キラキラと。 「雲雀さん格好いー!!やっぱり雲雀さんの髪とか目のつややかって感じの黒にはこんな格好が似合いますよねっ!もう王子様みたいですよ!俺を迎えにきて、なーんて!あ、アンドレ様って呼んだほうがいいのかなぁ!前に骸にファンタジ―風の仮装をさせたんですけど、あれも似合ってたなぁ・・・。ほら、骸って半端ない美形じゃないですか!似合うだろうなぁって思ってたんですけど、何でも着こなして!本当に物語に出てくる騎士みたいだったんでいっぱい写真とっちゃいました!あ、どこ行くんですか雲雀さん!まだ写真撮るんですからっ!!」 パシャパシャと音を立てながら饒舌に語りつくす綱吉から足早に逃げた記憶は新しい。 その時は思わず骸に同情して肩を叩いてがしっと抱きしめあってしまったほどだった。 「で・・・話はさかのぼるけど、結局ドレスは何色になったの?」 「はい、黒とか白とか原色でいくと気の強い印象は与えるけど、キツイ印象を与えるからってことで、エメラルドブルーのマーメイドドレスに白のレースをあしらったものになったんです」 ふぅんと答えて、雲雀は紅茶を飲みほした。 きっと青にしたのは大空をイメージさせるためだろう。 大空のリングを持つドン・ボンゴレの隣にたつ大空をイメージしたドレスを着た女性。 それはどういう意味を持つか・・・。 「負けたら許さないよ」 「はひ!絶対に負けませんっ!」 おかわりと言って入れてもらった紅茶を飲みほして、雲雀は好みの味にわずかに口端を吊り上げた。 |