「ハルが嫌い?」


その突然の十代目の言葉に、心臓がはねた。


「・・・まさか」

嫌い、という言葉は不適当だ。
どちらかというと、この感情の名前は、


「じゃあ、憎い?」


「・・・」

思わず押し黙った。

まっすぐ空のように透き通った十代目の目は何もかも見抜いていらっしゃるようで。
いや、実際見抜いているんだろう。



「・・・そっか」
困ったように十代目が笑う。

「俺は、十代目の意思には反しません」

貴方が出した答えなら、俺は必ず付いていきます。
その答えがどんな答えだとしても、貴方の選んだ道を付いていきたいと思っているから。

「別に、さ。いいんだよ」

「十代目?」
「隼人がハルを憎くても、それは人の感情だから。俺が口出すことじゃないからさ」
「・・・俺、は」

「いいんだよ」


どこまで見透かしていらっしゃるのだろうか。
せめて十代目の前では昔のように振舞っていること、嫌っているように見せないこと。


「ごめんね、隼人」
思わず顔を上げた。


「ごめん。ハルをここに置いておくことがこの世界でおかしいことだってことも分かってる。日本に帰すべきだってこともわかってる」
「じゅ、だいめ・・・」
謝る必要なんてありません!そう言いたかったけれど、十代目はそれを許してはくれなかった。

「俺は、弱虫だから・・・」

その言葉に何を言ったらいいのかわからなかった。
そんなことないと否定するのは簡単だけれど、違うような気がした。
否、もとより十代目は答えを望んでなんかいない。


「嫌いじゃないんです・・・憎い、とも違うんです」
何と言えばいい。

「許せない、んです」

全部が。軽率なところも、笑っていられるところも、闇を知らないところも、全部。


「隼人・・・」
「あんな・・・!あんな戦えないくせにっ!!」

どうして、何もしてないあいつが、十代目の傍にいるんだっ!
俺は必死で十代目の本来の笑顔を取り戻そうとしてたっていうのに、あいつはすぐにっ!



「っ、隼人――!」



「え」


息を呑んだ。突然強く押されて、渇いた音に耳が震えた。



「十代目っ!!!」





彼女の存在は



( 何故ここまでも彼の中で大きいのかという嫉妬が体中を駆け巡る )