久しぶりに全身で怒るハルを見た。

「知らないくせに?どれだけ聞いたってどれだけ同じ想いをしようと動いたって、止めたのはそっちじゃないですかっ!色々頭で考えて逃げ道を考えて知ろうとしたって、それをさらに上回って止めたのは誰だと思ってるんですかっ!!」

キィーンと頭に響く怒鳴り声がさらに大きさをまして行く。

「銃は確かに5割も行くか行かないかですよっ!だって、止められたんですもん!もうこれ以上成長の兆しは見えないってっ!!ハルに銃は使えないって言われたんですもんっ!!」

ぼろぼろとその目から大粒の涙がこぼれる。
十代目がイタリアに渡るっつー時には泣かなかったくせに、なんでこういうときだけ泣くんだよ。


「ハルはっ、ツナさんの隣じゃ戦えないんですっ!」

それを本当は望んでいたんだろう。
今みたいに護られる立場じゃなくて、隣で一緒に戦う俺達のような立場を。

「本当は、戦いたかったんですっ!ツナさんの隣で、ツナさんを護ってあげられる場所にいたかったんですっ!どんなに幸せなことが起きたって、ツナさんが居なくちゃ意味がないから!」

ひょっとして、この声は十代目に聞こえているのだろうか。
なら、聞こえないで居て欲しいと思う。

「でも、駄目だって、分かったんです・・・」

どうか、聞こえないで居て欲しいと思う。

「だってツナさんは獄寺さんが前線にいるのだって苦しくて仕方が無いのに、ハルまでそこに行ったら、ツナさんがもっと苦しむから」


十代目は、平和を愛するお方だから。
このバカ女まで戦うなんてことになったら、誰よりも胸を痛めるだろう。

戦いたいっていう意志を持っていることを知ったら、それだけでさらに苦しむだろう(多分、知っているんだろうけれど)。


「ハルがすることは違うんです」

俺達が前線に立つことですら悲しむお方だから。

「お前の、すること・・・?」

俺達を護りたいからと、この世界に足を踏み入れた。
血の一滴流れることですら悔やむお方で。

「ツナさんいる闇が、どれだけ深いのか・・・ハルには分かりません。でも、決して浅くは無いんだろうと思ってます。人を殺すことがあるってことも知ってます。・・・ツナさんが人を殺したってことも知ってます」

ふとハルが俯く。ポタポタと未だに涙は落ちていて、握っていた手の平が震えている。
涙を堪えようなんて高等技術、してんじゃねぇよ、バカ女。

「ハルは、ツナさんを闇から助けたいんです。殺すことは普通のことじゃないって。殴られるのは痛くて、殴るのも痛くて、人を殺した心だって、凄く凄く痛いんです」

だから十代目はいつも悲しんでいた。殺すことを苦しんでいた。

「・・・そう教えたら、何度だってツナさんが苦しむことは分かってます。殺さなくちゃいけない時があって、それに慣れないと何度も苦しむんだってわかってます・・・・・・」


馬鹿だ、こいつは。
俺と同じ、十代目馬鹿だよ。


「だけど!殺すことに、傷つけることに慣れたら、それに気付いたときがきっと一番苦しいんですっ!辛いんですっ!」

どうか、この声が十代目に聞こえていたらいいと思う。
ああ、本当、馬鹿ばっかだな。


「ハルは、ツナさんを苦しめないためにも、そういうことをしちゃいけないんです。どれだけ傍で戦いたくても、ツナさんはその戦った後に帰ってくる場所に何も知らないでハルが居ることを望んでるから・・・」


ギリっと歯軋りの音がする。



「それが、どれだけ悔しいことか・・・!」





彼女の抱える悔しさ



( それでもその場所を、彼のために選ばざるを得なかったのだ )