ハルが雲雀と骸を説得して修行を始めた時、一つ胸の中に何かが落ちた。
俺はまだ、それに名前を付けるのを躊躇っていた。




「とりあえず、常備できるものとしては銃・・・が妥当だな」
「はひ、そうですね。トンファーとかトライデントなんて、ハル絶対使えませんもん・・・」

しょぼんとさげる頭にピクリと手が動きそうになって、それを全身全霊で止めた。
決して、その頭を撫でてやろうとしたわけじゃねぇ。


「・・・。ハルに合うつったら、これ・・・くらいだな」

使うことになれてねぇ・・・むしろ、使うことを目的とした銃は不要だ。
(正直、それを持っている姿を見て嫌な気分になる)

小ぶりで、それでいて威力を損なわない・・・威嚇射撃には十分で、人も殺せる銃。
最低のラインを保ちながら、それでも妥協に妥協した銃をハルの手の平に乗せた。

「―――っ!」


おもちゃとはケタ違いの重さにハルが息を呑んだのが聞こえた。

多分、ここでその銃を奪い取っても誰も俺を責めはしねぇだろう。
反射的に奪いそうになって若干迷っていた間に、ハルがその銃を握った。



「・・・・・・重い、んですね」

「・・・ああ」

人の命を奪うということは、その銃がどんどん重くなっていくことだと思え。

お前の柔腕ではとても支えきれないほどに重くなり、支えきれないということはもうツナの近くには居られないことだと思え。


(だから、その銃を握り続けるためには・・・奪うな)



「リボーンちゃんは、どんな銃を持ってるんですか?」

「俺の?」

「はい」

座っているせいでじっと見上げてくる目に一つ息を吐いて、俺は銃を取り出した。
この手の平の大きさとはあまり似合わない、威力と精密さを兼ね備えた愛銃。
毎日手入れをしているとはいえ、大分ボロくなってきた。



「・・・ハル」


「はい」


今度は、ハルがしょぼくれたときに食い止めた手を、頬に向けて動かした。




「ハル、泣くな」


「っはいぃ!」



手を、握られた。

俺の沢山人を殺した手を、迷うことなくハルが握る。
さすがに、これがおもちゃじゃないことも、昨日今日使い始めたものじゃないことも気付いたらしい。


「泣くな、ハル」

俺にどうしろっつーんだ、ハル。


「だ、だって、ひっ、う、だってぇっ!」


泣かれたらどうしていいのかわからない。
(泣く女を黙らせる方法は、慰めるのと殺すのと二種類知ってるはずなのにな)


「泣くんじゃねぇぞ」

「は、はいぃ・・・っ!」


ハルに限っては、どうしたらいいのかわからない。





彼女は僕を鈍らせる



( その鈍みは心地よく切なくて苦しくて甘くて嬉しくて苦くて、初めての感触 )