それがどれだけ自分勝手で自己主義で浅はかな思いか。 何も知らないでいる彼女に反吐が出た。 彼女の主張を全て聞くつもりなんて、毛頭無かった。 恭弥は常に隠し持っている(今日は外に出していたが)トンファーを戦いに生きるものなら笑ってしまうような速度でハルの首筋にあてた。 勿論、それでもハルは一瞬で首にあてられたように見えたのだけれど。 「馬鹿じゃないの」 「っ――!」 初めて、ハルは恭弥に対して恐怖を感じた。 それほどに恭弥の声は冷たくて。 「君が付いてきたって、邪魔なだけだよ」 刺すような視線と冷たい声に身体を振るわせたけれど、負けるもんかと顔を上げた。 「でもっ、でもハルは!」 「僕らには邪魔にすらなりませんが、彼には違う」 同じく、骸の目線も声も冷たい。 「だ・・・けど、でも――・・・一緒に、いたいんです」 好きになってもらえなくたって、なって・・・もらえないからこそ、傍にいたって。 「だから、馬鹿だって言うんだよ」 泣きそうになった。今ハルの涙を必死で食い止めているのは意地だけだった。 恭弥の中学生の時からさらに鋭さを増した瞳がハルを睨んだ。 「あの子の歩く道の上辺しか知らないくせに。そんな軽い覚悟でついていこうなんて浅はかだよ」 軽い覚悟なんかじゃない!と上げようとした声は音にならなかった。 さらに叩き落とすように言葉は続いて。 「君なんて抵抗する間もなく強姦されて、殺されて、バラバラにされて売られるのがオチですよ」 ひくりと、ハルは喉がなるのを感じた。 その言葉には一切の誇張も捏造も無いのだと目が語る。 「そんな愚かでも、あの子にとってはそうじゃない」 一際、大きく心臓が跳ねた。 「ツナ、さん・・・」 ハルの目から一滴の涙が流れたと思った瞬間、追うように何度も何度も流れていって。 「あの子にはどれだけ最善だとしても、君を切り捨てるという選択肢を選ばない」 優しくて、本当の強さを持ってる人。 だから、好きになった。 「君を攫おうとする奴がいたら、君を傷つけようとする奴がいたら、君に危害を加えようとする奴がいたら」 また屋上の床にハルの涙が零れて、染みを作って、消えた。 「彼は、自らの身を呈してでも貴方を護る」 恭弥に続いた骸の言葉に、ハルはとうとう膝の嘲笑に屈して座り込んだ。 立とうと思っても、足の指一つですら動かない。 「ハル、の・・・せいで・・・」 ツナさんが――。 「そう、貴方のせいで」 また涙が零れてハルは言葉を失った。 すると、恭弥が一度手を引いて、 「――っ!!」 右耳に強く破壊音が響いて、目の端に砕けた壁とトンファーが見えた。 「こんなのも・・・避けられないくせに」 その目が苦しそうに歪んだ。 |