それが起きたのは、骸たちと話をしてから一週間も経たない日のことで。
京子とハルがケーキの話をしながら帰っていたときのことだった。

ごくりと、唾を飲んだ音が響いた。




「笹川京子と三浦ハル・・・だな?」

そう言ったのは突然現れた黒服のうちの一人。

囲むように現れた黒いスーツの男たちに京子とハルは身体を振るわせた。
逃げ場なんてものは見つからなかった。


――マフィア。

すぐに浮かんだ相手の正体に、ハルは少しだけ頭が冷えるのを感じた。

どうしてハルたちが狙われた?向こうの目的は?


否、考えるまでも無い。



「ハル・・・ちゃん・・・」
微かな声が背後から聞こえて、ハルははっと気付いた。

ここで京子ちゃんを護って切り抜けることが出来れば・・・あの二人に認めてもらえて、ツナさんの傍にいれるかもしれない。
一緒に、イタリアに――



「・・・人違い、です」

震えた声ではこれが精一杯だった。
声をひっくり返らないようにするだけで大変だった。


それでも、震えながら袖を握る京子を護らなければいけないと、ハルは唇を噛み締めた。

(ツナさんの大切な人で、ハルにだって大切なお友達なんですから)


「調べはついている。シラをきっても無駄だ」
ピラリと見せられたのは写真で、京子のハルの裾を握る手が一層強くなった。



「――き、着替えの盗撮なんて変態ですっ!」


「仕方が無いだろう!これしか送られてこなかったんだ!」


会話をしている間にもじりじりと近寄ってきて、逃げ場を失っていく。

ここを切り抜く力なんて――・・・持ってない。



「ハルちゃん・・・」
怯えた京子の声が聞こえて、ハルはぱちんと何かが弾けたように感じた。

(ハルは、何を考えていたんでしょう・・・)

ツナさんの傍にいたいって、それよりも前に京子ちゃんを護らなくちゃいけないのに。


「大丈夫、です」
裾を握る京子の手を握って、ハルは深呼吸をした。

(ハルには相手の正体が分かってますけど、京子ちゃんは知らないんですから)
だからこそ、今京子を護れるのはハルだけだった。




「貴方たちに従います」

反抗はしません。
ハルはもう一度京子の手を強く握った。

「賢明な判断だ」
くつくつと笑う男を睨んで、けれど泣きそうなまま言った。


「だから、京子ちゃんに何もしないでください」


京子ちゃんに何かあったら哀しくて哀しくて仕方がありません。
ツナさんはきっと、ハル以上に。

そう思った瞬間、ハルの体中の震えが止まった。





今は私だけ



( なら護らなくちゃ。こんなところで、負けてられない )