ハルと京子が連れて行かれたのは光の入らない地下で、蛍光灯の光がやけに反射していた。


「大人しくしていれば何もしない」
抵抗すれば、殺す。と言外の言葉に二人は身体を振るわせた。

頭の中を占めているのはどうしようもないくらいの恐怖で。


けれど、京子は震える口を開いた。


「貴方たちの目的は、何?」



そう見あげた彼らは、その言葉に肩を竦めた。
彼らの反応にさらに声を上げようとした京子を止めたのはハルで、

「ハル、ちゃん?」


「貴方たちの目的はツナさん・・・沢田綱吉、ですね?」

その言葉に男たちの口がにやりと動いた。

「貴方たちの最終的な目標のためには、ボンゴレが邪魔で今のうちに潰しておこうというわけですね」


なんとなく・・・というかそれ以外理由が考えられなくて、芯の奥底から怒りが沸騰してくる気がした。



ハルの言葉に、面々が眉を上げる。

「・・・なるほど、こちらのお嬢さんの方が利口というわけだ。確かに我々の目的はボンゴレ十代目、沢田綱吉だ」


「ボン・・・ゴレ?」



男の言葉に京子が首を傾げる。
それに、男がニヤリと笑って。



知られたく、無かった。

ハルは思わず声を上げてしまいそうなのを必死で堪えた。


だって、そこだけは勝っていたのに。



「沢田綱吉はイタリアンマフィア最大組織、ボンゴレファミリーの10代目だ」



思わず京子は周りを見渡したけれど、誰も嘘だという顔はしていなかった。ハルで、さえも。


それから押し黙るハルの隣で、京子はギロリと男たちを睨み上げた。

「そんなことで――そんなことでツナ君を巻き込んだの!?」




泣きそうになった。
睨み上げる目は強くて、強くて。その中には綱吉への――。

「人質をとるなんて最初から負けてる証拠じゃない!」


京子ちゃんもツナさんのこと、好きなんですね。
愕然とした。今まさに徹底的に負けを叩きつけられたような気分になった。



「ツナ君は貴方たちに負けたりなんてしないんだから!」



これで完璧に失恋、ですよね。
京子ちゃんがツナさんを好きなら、本当に出る幕なんてものはなくなっちゃうんですから。
必死に涙を堪えた。


俯いて、そうして揺らいだ影を見つけて、ハルははと顔を上げた。


――思わず、飛び出した。



京子ちゃんだけは、傷つけちゃいけないんですっ!


「っ――!」



渇いた音がして、冷たい床になす術もなく倒れこんだ。
ジンジンと頬はあつくて、京子の呼ぶ声は遠く、遠い。


ああ、だけど、やけに近くで音が聞こえた。

思わず口端が緩んで、ハルは男たちを見上げた。



「ボンゴレに手を出したこと、後悔してください」



男たちを数人巻き込みながら、壁が吹き飛んだ。





何にも勝てない



( 最初から負けていたくせにと誰かが囁いた )