ハルと京子の誘拐事件から数日後、他の皆より一足先にイタリアに渡った綱吉は、書類に埋もれ半分姿を隠す立派な机に項垂れた。


「っ、あー・・・疲れたぁ・・・」

そんな綱吉にギラリと目を光らせたのはリボーンで。


「おい、手が止まってるぞ、ダメツナ」
「ちょっとだけだって・・・」

そういいつつも綱吉は一向に元の体勢に戻らない。


結局、折れたのは数時間も仕事を手伝っていたリボーンで、仕方が無いという溜息に綱吉は顔を綻ばせた。

「ありがと、リボーン」
「うるせぇ」

最近生意気になったとは思うが、仮にも上司なのだから部下にへこへこしてもらっては困る・・・いや、だが・・・。
色々考えていると綱吉はボンヤリと何かを見ていて。

ニヤリ、とリボーンは口端を吊り上げた。


「そういえば、ツナ・・・」
「ん?」
生返事かダメツナめ、とは思ったけれどそこは置いといて。


「お前、京子のことがまだ好きなのか?」

「――はぁ!?」


ん?とリボーンは片眉をあげた。
どうやら予想していた図星の反応には程遠い。

「京子ちゃんは何ていうか・・・憧れっていうか・・・」


(もしかして・・・)

ふと思い至った答えをリボーンはそのまま口にした。

「じゃあ今好きなのはハルか?」


「・・・・・・・・っええぇ!?」

顔が真っ赤に染まった。

そんなことになってたとはな・・・と思うリボーンをよそに綱吉は色々と弁解をしていた。



「そんな!全然考えたことなんて無い!そりゃ、好きか嫌いかって言われれば勿論好きだけど!」

逆に慌てるほうが図星だと示しているようなものなのに。


「でも、本当に、そんなんじゃないんだ・・・」

声は優しく、目は柔らかい。

――この、ニブツナ。


「幸せになって欲しい」

脳裏に浮かべるハルの顔に、綱吉は顔をほころばせた。
花開くようにゆっくりと。

「――大切、だから」


瞳を閉じて刻み込むように、言い聞かすような声にリボーンは溜息を吐いた。

綱吉はきっと、ハルのことを無意識で。


(ま、ハルがこっちにくればツナも気付くだろ)



楽観視していた。
さっさと気付かせておかなかったことを、後にリボーンは悔やんだ。





想いの先は?



( 昔恋焦がれた少女じゃない、そうそれは )