銃は的に五割当たるか当たらないでやめてしまった。
タイムリミットなんてものは無かったのだけれど、威嚇射撃が出来るようになったから。

ハルは目的の場所まで迷うことも泣く歩いた。既に、ここの地図は頭に嫌というほど染み付けた。
走り出したい気持ちを抑えるだけで、精一杯だった。



ハルが骸と恭弥に教わったことは、逃げること。
外で一人っきりにならない。戦いが始まったら周りを見ながら被害の及ばないところに逃げる。
もし攻撃を受けることになったら、急所は避ける。


胸にある銃はあくまでも護身用だ。
それでも、人は殺せる・・・んですけど。


ゆっくりと息を吐いて、少し足の速度を速めた。


どんな顔、されるんでしょう。

あまり良い顔をされるとは思っていなかった。
だって、嘘をついたんですから。


待ってるって、そう約束したのに今ここにいて・・・帰る気なんてサラサラ無いのだから。




木製のアンティーク風の扉の前で息を吸って、吐いた。
この、向こうに。

「ツナ、さん」

ひやりとしたノブに手を触れて、そっと押した。



中には、目を見開く綱吉がいて。


「ハ・・・ル?」

息を呑む音が聞こえた。

「はい。ツナさん」


偽者でも幻でもないんですからね。本物、ですよ。
ガタリと音を立てて、ツナさんが呆然としたまま立ち上がった。

「何で、ここに・・・」
「ごめんなさい」

綱吉がそれ以上何かを言う前に頭を下げた。


「ツナさんがいないところにいるのが、耐えられませんでした」

ごめんなさい、ともう一度頭を下げて、ハルは綱吉を見あげて笑った。
恥じるところなんてないと胸を張って。けれど、嘘をついてしまったからちょっとだけ眉を寄せて。


「ツナさんが大好きだから、諦められませんでした」


ツナさんの傍にいること、一緒にいること、ツナさんに“当たり前”を教えていくこと。
全部全部、諦められませんでした。


嫌な顔はしないでほしい。



「ハル・・・」
「はい」

帰れ、何ていわれても帰りませんからね。
そう心に誓うと、綱吉の顔がふと綻んで。


「ありがとう、ハル」

「―――はい!」


絶対に一緒にいるんだってことを決意した。

その想いを忘れてしまうなんてことはないと、思っていた。





この想いが止まるまで



( たとえば少しだけ休む時がきたとしても )