心臓が、止まるかと思った(むしろ、止まってしまえば良かった、なんて不謹慎だけど思った)。


「――っツナさん!」
裂くようなハルの声が聞こえて、振り返ろうとしたときだった。

突然の敵の来襲(しかも相手は逸材だらけだ)との交戦で随分疲労してたみたいで、その声が届いたのだってハルが俺にぶつかってきたときだった。
大分時がたって昔みたいな身長差じゃなくて、肩よりも下にハルの頭が見えて真っ赤な雫が散った。


「ハ、ルっ」

喉が震えた。俺を庇ったんだってことは、すぐに分かった。


撃った方向にいた奴はすぐにリボーンが撃って。
ボスだからとかボンゴレ十代目だからとか、そんなこと頭からすっぽ抜けてた。頭の中が真っ白になった。

隼人や武、皆がハルの名前を呼んでいて、ああもうボンゴレとかそんなことみんなの頭から消えてた。


ずるり、と体が崩れ落ちそうになって、急いで抱きとめた。
「ハルっ!!ハル!」

待って、待って、くれ!
ハルの震える瞼がユックリと開いて、唇が震えながら笑みの形を作った。


その顔はいつもより真っ青で、唇に力なんて入れられないみたいで震えながら動いた。
「ツナ、さん」
いつものあんな明るくて張りのある声とは打って変って、酷く弱弱しくて小さい声で。
「ハル!ハルっ!」

多分傷口は今まで戦いに出ることのなかったハルには凄く痛いはずなのに、それなのに。
何でそんなに優しい顔で笑うんだよっ!

隼人がリボーンの指示でシャマルを呼びに行った。


俺はハルの顔が真っ白で人形みたいで今すぐにでも動かなくなるんじゃないかって怖くて、体温を与えるように抱きしめることくらいしかできなくって。
なのに、ハルは俺を安心させるように笑ってて。

「ツ、ナさん・・・だいじょ、うぶですよ、ツナさん」
何が大丈夫なんだよ、馬鹿!
自分以外の人が怪我してたら一番悲しそうな顔をしてるのはハルのくせに。

誰の、どんな傷だって一緒になって痛そうな顔をして、その痛みを知ろうとしてくれるのはハルのくせに。
何で自分のときばっかりそんな顔するんだよっ!!



「ハル、ハル!すぐにシャマルが来るから!大丈夫だから!」
落ちてた手を急いで握った。

嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ!失いたくなんてない!いなくならないでっ!
頼むから、お願いだからっ。大切なものを一杯くれた君が、消えてしまわないでっ。


じわじわとハルの瞳が閉じ始めた。

真っ白な顔はもっと白くなって、青くなって、ゆっくりと体が重くなっていく。
駄目、だ。駄目だ!ハル!!


「っハル!目を閉じるなっ!ハル!!」


今一番痛いのはハルのくせに、何でそんなに笑ってるんだよっ!
駄目だ、目を閉じるな、ハル。お願いだから、俺を置いていかないでっ!



がくりとハルは体全体の力を失って、その体が冷たくて、俺は動けなかった。

走ってきたシャマルに急くようにハルを取り上げられて、隼人や武に連れられて医務室の前で待っていても、手を祈るように握ることしか出来なかった。
嫌だ、嫌だよ。ハル。死なないで、いなくならないで、俺を置いていかないで。

声をかけられても、肩を叩かれても返事なんて出来なかった。

頼むから死なないで、ハル。



ハルが死んだら――俺、どうしたらいい?





こんなにも君に支えられていた



( 失いそうになった瞬間に、それを理解したとしても祈ることしかできない僕は果てしなく無力だ )