ハルが静かに目を開けば、そこには真っ白な天井があった。


(ここは、どこ・・・でしょう)
自室の天井ではない、何度見ても真っ白で清潔感に溢れている天井を見上げた。
(ハル、は、確か、ツナさんに銃が向けられてたから――)


そこまで考えて、ハルははっと一瞬で足先まで意識を覚醒させた。


「ツナさ――っ!」


起き上がろうとして背筋にビシっと走る痛みに、ハルはもう一度ベットに沈むことを余儀なくされた。
先ほどの一瞬の衝撃で背中はまだズキズキと痛みを訴えていたけれど、それよりもハルはここに居ない綱吉のことで頭が一杯だった。

怪我はしていないのか、あの後何か起きたんじゃないか。視線をきょろきょろと彷徨わせて見ても綱吉の姿はおろか、人一人の姿も居なかった。



「ツナさん・・・」

「――ハル?」

何回目かの名前を呼んだときだった。
その声にハルは急くようにドアの方を向いて、またその衝撃で背中が痛んだ。けれど、そんなこと気にしている余裕など無かった。

「ツナさん!」
駆け寄ってくる姿を見あげれば、そこにはなんともなさそうな綱吉の顔。
長い長い安堵の息を吐いて、ハルは綱吉を見あげた。

「良かった・・・」
「・・・ハル」
そうハルが微笑むと、綱吉は痛ましげに眉間に皺を寄せた。
ポロポロとハルの瞳から透明な雫が一つ、また一つと追いかけるように落ちていった。


「ツナさ、ツナさん・・・良かったですっ・・・。良かったです」
「うん・・・」
嬉しそうに微笑むハルとは対象に、どんどん綱吉の顔は沈んでいった。


それから、ハルが気付く前にその顔を笑みに変える。
「ハル、疲れてるだろ?今は寝てたほうがいいよ」
優しく頭を撫でられて、ハルはほぅっと溜息を吐いた。
「で、でも、折角ツナさんと一緒にいるのに・・・」
もったいないです、とハルは若干閉じかけている瞳で言った。

「大丈夫。起きるまで傍にいるから。だから、ゆっくりと眠って」

ね?ハル。
そう言われてしまったらもうハルにそれを拒否することなんて出来なかった。


頭を撫でる掌の心地よさにうっとりと目を閉じて、そうしてそのまま深い眠りについた。




ハルが静かに眠りについたのを見ると、綱吉はポケットから携帯を取り出して短縮ボタンをひとつ押した。

「もしもし、隼人?準備、終わった?」
そう問い掛ければ、電話の向こうから若干気まずそうな隼人の声が返って来た。
『は、はい。終わりました。・・・その、十代目・・・』
「ん?何?」
優しく問い返されて、電話の向こうで隼人は若干息を呑んで躊躇った。


『・・・その、これでいいんですか・・・?本と――』

「失いたくないんだ」


簡潔でそれでいて重みのある強い意志に、隼人はそれ以上口を開くことが出来なかった。
「ハルを、失いたくなんてない。そのためには、こうするのが一番なんだ」
そうして綱吉は、隼人の返事を待つこともなく電源を落とした。


ゆっくりと、綱吉はベットで眠るハルに視線をよこした。
「本当は日本に帰って普通に暮らすのが一番なんだろうけど・・・ごめん、な」





もう手放すことは出来ない



( それほどまでに彼女の優しさに暖かさに侵食されていたのだと、彼は鬱葱と笑った )