正直、彼の眼を見たときは何か一つ壊れてしまったように感じた。 そうして、その答えが間違っていないと気付いたとき、少しだけ哀しかった。 「・・・骸、ごめんな、突然呼び出して」 「別に君が謝ることはありませんよ。僕が忠誠を誓っている唯一の人間なのですから、もっと堂々としたらいかがです?」 若干茶化すように言うと、綱吉の強張った顔はゆるりと溶けた。 それから、一つ質問をぶつけた。 「そういえば、ハルの容態はいかがです?」 綱吉の顔が少し強張る。 「あ、うん。大丈夫。怪我のほうは大丈夫、何だけど・・・」 綱吉は挙動不審に目を彷徨わせていた。何かわからないけれど、酷く嫌な予感がした。 「だけど?」 「・・・その、頼みがあるんだ」 問い掛ければ、決意をしたように一度深く呼吸をして、綱吉は顔をあげた。 そうして、その目が若干狂っているように見えた。 予想は、あたってしまったんですね(少しだけ、残念だ)。 「ハルのこと、ですか?」 先日綱吉を庇って凶弾に倒れたハル。その体は決して鍛えていたわけでもなく、戦闘ができるわけでもなく、戦いなんて護身術程度にしか身についていない普通の女。 ――いや、あの意志は並大抵ではありませんけどね(何せあのリボーンと雲雀君と僕を脅してでもついてこようとしたんですから)。 強い力は持っていなくても、強い想いだけを抱きしめて綱吉を愛しつづける、彼女。 「うん、そうなんだ」 付いて来て、という綱吉の歩く後ろをついて行き、たどり着いたのは一つの扉。開くと、その中央にあるベットで眠るハル。 ・・・随分と穏やかじゃない部屋ですね。 窓からは燦々と太陽の光が降り注いでいたが、それを若干遮るように均等に並んだ柱の影・・・白く彩られた鉄格子がをこの空間を閉じ込めている。 「彼女から、翼をもいだのですね」 「・・・こうするしかなかった。ハルを失わないためには、こうするしかないんだ」 まだ彼がこの座へとついたばかりのころの癖のように苦しそうに下唇を噛んだ。 白を基調に華やかで、それでいて静かで優しい部屋。何個もの人形もあって、きっとこれは綱吉がハルの趣向を理解した上で置いたのでしょう。 大きなスクリーン、キッチン、ソファ、机、椅子、この部屋に無いものなんて何もない。 「骸・・・わかってるとは思うけど」 下唇を噛むことをやめた綱吉が僕を見上げた。その瞳をもう一度真っ直ぐに見て気付いた。 違う、彼は壊れたんじゃない。壊れる前に、その防衛のためにこの行動に出た。彼女を失って壊れてしまう前に、無自覚が助けながらもこの結果をもたらした。 「この部屋に幻覚をかければいいのでしょう?」 「うん。敵とか殺気を持って近づいてきたら、絶対に分からないように」 全てはたった一人の力無き彼女を護るためだけに。 「ええ。分かりました」 槍を取り出して神経を集中させる。 あの凶弾に倒れ、僅かながらにも動揺してしまったのは、震える足で立ち向かってきた彼女の想いの強さを気に入っていたからなのかもしれない。 確かに、死なせるには惜しい存在だと想ったのも事実(何せ彼女に振り回される彼は面白い顔をしていた)。 一気に力を放出して、幾重にも幻術を施した。 彼女を傷つけるものが入れないよう、彼女が寂しくならないように他の彼女に親愛を持つ彼らは入れるように。 「(・・・ただ)」 彼女は鳥篭の中にいるほど、大人しい性格だったとは記憶してないんですがね。 |