「ツナさん!」


十数日後、怪我が治ってきたハルは随分と室内を動き回るようになった。
いつだって俺が来ると笑顔で笑ってくれる。

ここは・・・ここだけが、この世界で一番綺麗な場所。



「ハル、大丈夫なのか?」
「もう、ツナさんは心配性ですね!全然へっちゃらですよ!」

本当に、平気みたいだ。
良かった、とこっそりハルにばれないように安堵の溜息をはいた。


そういえばさっきから何だか・・・。
「何か、いい匂いがするんだけど」

「あ、そうですツナさん!ハルさっきケーキ作ったんですよ!」
そういうとハルはキッチンの中に入って行って、それから・・・えっと、マーブルケーキかな?を取り出してきた。


「これって、確かマーブルケーキだったよね」
「はい!ものすごく簡単ですから、リハビリじゃないですけど作ってみたんです!」
よかったら一緒に食べませんか?というハルに俺はすぐに頷いた。

「うん。俺でよかったら喜んで」
そう言うとハルは本当に嬉しそうに笑ってくれる。


――ああ、支えられてる。
あの世界の黒さを知っていくたびにどんどんそれに染まっていくことが恐かった。
だけど、染まっていくのは一人じゃないからって、耐えて。



・・・でも。

「ケーキ切り分けてきました!さ、ツナさん。お茶会しましょう!」

ハルが傍にいてくれた、から。
「うん」
俺はそれに染まりきらないでいれた。
何にもできないのに、力だって持ってないのに、それでも全力で頑張ってくれていて。




「ハル?」
窓の近くのテーブルにたたずんでいるハルは、じっと鉄格子を見ていた。

「ツ、ツナさん!えへへ、ごめんなさい。ボーっとしてました。さ、食べましょう!」
そういってハルが笑った(でも、わかる。これは本当の笑顔じゃない)。


彼女を閉じ込めた。
白い白い綺麗な箱の中だって、ここは檻の中で。

・・・だけど。


「おいしいよ、ケーキ」
「本当ですか?嬉しいです!」

間違ってなんか、ないよな?

だって、ハルを失いたくない、ハルに傷がつくなんて嫌だ。
この笑顔が消えることだけは、絶対に嫌なんだ。

「たくさん食べてくださいね!」
光が消えてしまったら、俺は完全に闇に染まってしまうから。
(俺だけ、じゃない。・・・きっと、皆も)



俺は、間違ってないよな?





自問してしまう心



( 彼女を失いたくない、それだけでしてしまった行動は、正しさなんて含んでいないとは知ってるけど )