大切にしてくれているというのは、わかるんです。


こっそりとバレないようにベットの中で溜息を吐いた。
誰もいないのにバレないように、なんておかしい気もしたけれど。


ツナ、さん。

シーツに顔を埋めて、こっそりと口だけ動かした。
室内はとても静かだから、音にすればすぐわかってしまうから(一体、誰に?)。

一人で寝るには大きなベットで、そのせいか大きな人形がいくつかと、小さな人形がたくさんあって。
全部全部、ハルが好きだと言ってた、人形。
何にも言わなくて、ひっそりとそこに座ってるだけ。


「―――、」

ツナさん。

またパクパクと口を動かした。
部屋は真っ暗で窓から月明かりが入るだけだから、きっと見えない(だから、誰に?)。

ツナ、さん。

一番大きな人形を抱き寄せて、胸の中に閉じ込めた。
何でもある部屋。足りないものなんて、ひとつもない部屋。
欠けているものなんて、ない。

ただ、白く光る月明かりが刺しこむ窓は、四角い形とそれを遮るように縦に伸びている影が見える。
まるでアンティークみたいについてる、けど・・・白い白い、鉄格子。


ツナさん。ツナさん、ツナ、さん。

優しくていつも笑顔で、ハルはそれだけで不安が吹き飛んでしまうはずなのに。
どうしてでしょう。その笑顔を見るたびに、不安が増えていくんです。
不安で不安で、心が痛くなってくるんです。

ぎゅっと目を瞑った。ここまで月明かりは届かないからきっと見えない(ねぇ、それは一体誰に?)。

呼んだら皆が来てくれる(仕事があるだろうから、呼んだことはないですけど)。
笑ってお茶を飲んで、お話をして、一緒にいて。
何にも変わってないはずのに、どうしてこんなにも変な気分になるんでしょう。
おかしいですよね。

ツナさんはハルの作ったお菓子を食べてくれて、笑ってくれて、おいしいって言ってくれて。
何にも変わってないのに。

あの優しい笑顔は変わってないのに、変わらないのに、どうして。

どうして、ハルはこんなにも恐いんでしょう。


明日になればまたツナさんが来てくれて、ドラマの続きを見て泣いているハルに微笑んでくれて。
一緒にお茶をして笑ってお話をして、それからおでこにキスをしてくれるのに。

前よりも一緒にいれる時間が多いのに、傍にいるのに。
何が変わってしまったんだろう。
腕の中の人形をもっと強く強く抱きしめた。

イタリアで傍にいたいからここに来て、今傍にいれて、ツナさんと一緒に笑えて。
何にもおかしいことなんて、ないはずなのに。



「ツナさん・・・」
ハルおかしいんですよ。

ツナさんはいつも部屋に来てくれてお茶をして笑ってくれるのに。
ツナさんがここにいない気がするんです。





大好きなあの笑顔が霞んでいくの



( ボンヤリとした思考の中で、ずっと思う。どうして、そんなに遠くにいるの? )