「リボーン」 扉の向こうから聞こえてきた声に、リボーンは銃を手入れする手を止めた。 先ほどから扉の前で戸惑っている気配は感じていたが、何を考えているかはわかっていたため、彼女が決めるまで放っておいた。 そうして、叩かれた扉にリボーンが顔を上げる。 「ああ。入れ、ビアンキ」 返事を返してすぐに扉が開いて、若干覇気のない顔をしたビアンキが入ってきた。 「リボーン・・・」 「どうした?ビアンキ。美人な顔が台無しだぞ?」 わかっていてそう切り返すリボーンに、ビアンキは若干微笑んだ。 けれど、すぐにまた覇気のない顔に戻ってしまう。 「リボーン。私はあの状態のあの子達を見ているのは辛いわ」 「・・・・・・」 扉を閉じて、俯いた彼女にリボーンはあえて答えを返さなかった。 毒サソリの異名を持ち殺し屋として有名なビアンキだったけれど、身内への愛情は周りが思うよりも強い女性で。 ずっと一緒にいたあの二人の歪みを、哀しんでいる。 「気付けないあの子を見ていると、切なくなるわ」 「・・・そう、だな」 リボーンは机上に広げていた銃をささっと片付けると、ビアンキをソファへと招いてその向かいへと座る。 「ったく。本当はハルはどこに必要か。ダメツナが一番わかってるはずじゃねぇか」 溜息と共に吐き出された言葉に、ビアンキは顔をあげた。 「いいえ。違うのよ、リボーン」 「あ?」 ゆるゆると首を振るビアンキにリボーンは小首を傾げた。 なんらおかしい会話ではなかったはずだ。そう思っていると、ビアンキは躊躇うように視線を巡らせてから口を開いた。 「私が悲しいと思っているのは、ハルよ」 その目が強さに揺れる。 「――ハル?」 歪みの中心である二人のうち、一人の名前にリボーンは訝しげに眉間に皺を寄せた。 一番歪んでいるのは綱吉で、そうしてハルはその綱吉に反論できず鳥篭に囚われているんだと思っていた。 「ハルはまだ気付いていないわ。綱吉が歪んでしまっていることはわかっている」 でも、きっと。 「何がおかしいのか、どうしたら元に戻れるのか・・・」 今、この世界でもっとも美しい場所にいるのだということを知らないまま。 沈黙を保つリボーンに、ビアンキは悲しげに笑った。 けれど、それももとを辿ってしまえば、そう思わせなくさせた綱吉が、いる。 「あいつの、失いたくねぇ気持ちはわかる」 痛いほどに、わかってしまう。 どれほど失いたくないと叫んでいても、全てを護りぬくことなんて無理だと誰もが痛いほどに知っていた。 あの、ハルがいるような場所に皆閉じ込められていれば、という気持ちも捨てきれなかった。 「綱吉は、忘れてしまったのよ」 あの子が何を訴えてきたか、無力さを知り諦めかけ闘う力なんて無いのに、どうして傍にいたいと思ったのか。 ハルの、ただひたすらな想い。 「早く気付いたらいいのに・・・」 俯いたビアンキに、リボーンは小さく「そうだな」と返すことしか出来なかった。 |