「おやおや、珍しいですね。君のお誘いとは。――ええ、勿論クロームも連れて行きますよ」

くふふと笑う骸に、クロームは首を傾げた。
電話の向こうは骸の知り合いのようで上機嫌に笑っていた。ちらりとクロームを見て骸は一層笑みを深くした。


「それでは、後で」
電話を切った骸に戸惑いながら近寄ってきたクロームに少し独特の笑い声をあげて、

「ハルからのお茶のお誘いですよ」
「・・・ハル、から?――あ!」
はっとしたように顔を輝かせたクロームに骸は苦笑する。きっとそうなったのだと思いたい気持ちは分かる、けれど・・・。


「まだ分かりませんよ。今日は綱吉君が仕事に負われて来れないようですから」
彼女が歪みに気付いたのか気付いていないのか。

「あの部屋で迂闊な発言や行動をしないように」
「はい・・・」




「骸さん!凪ちゃん!いらっしゃいませ」
柔らかいハルの笑顔に骸とクロームは微笑みを返した。けれど、歪みには程遠いハルの笑顔にクロームは一抹の不安を抱く。


彼女のペースに引き込まれるままお茶会が始まった。

「角砂糖はいくつ入れますか?」

僅か、誰も気付かない程度に骸の肩が揺れた。
「僕は結構ですよ」と言う骸に続けてクロームが「じゃあ・・・私はひとつ」と小さな声で呟いた。
鉄格子の近くにあるテーブルの上に出来る等間隔の細い影にクロームは眉を寄せる。それから、誤魔化すように渡された紅茶に口をつけた。

「目の疲労回復効果があるらしいですよ」
「くふふ、日本の健康食品を思い出しますね」

「乱視とか老眼にも効果があるって書いてあります」
はひーと感心したように呟くハルにクロームは何かを言おうとしたのだけれど口を噤んだ。
言っては何かが崩れてしまう気がした。


「とりあえずそれは置いといてですね!ケーキもどうぞ!」
頑張ったんです、と続けて言ったハルに、骸とクロームが頷く。
「うん・・・いただきます」
崩れないように飴細工の乗ったケーキにフォークを立てた。

「腕をあげましたね。とてもおいしいですよ」
「うれしいです!じゃんじゃん食べてくださいね!」
ちらりと見上げたクロームにハルが微笑んだ。

「ちゃんと千種さんと犬ちゃんのぶんもありますから」

それから一呼吸おいて。

「よく食べますからね、犬ちゃんは。いっぱい作ってありますから」
「ありがとう」
ふわりと柔らかい紅茶のにおいが通った。


そんなとき、ふと骸の携帯が鳴った。
「おや、どうやら仕事のようですね。全く、男の嫉妬はみにくいですね」
「売れっ子さんですねー」
溜め息を吐いた骸にハルは呑気に言った。

そうして彼女のペースのまま始まったお茶会は彼女のペースのまま終わって。


それから入口に向う骸に近寄る。

「骸さん、寝ずに任務に行く癖、やめてくださいね」
「・・・」
骸は眉を寄せた。

「ぜーったいにやめてくださいね!」

「――わかりました。しかたがありませんね・・・」
ハルの気迫に渋々頷くと、骸はクロームを連れて廊下へとでる。


それから少し歩いて。
「骸様、不自然じゃ・・・なかった?」
手の上にある土産のケーキを見つめながら言うクロームに骸は微笑む。
「ええ、上出来でしたよ、クローム」

「ハルは――やっぱり・・・」

呟いた言葉は足音に消えた。


アニソドンテアの花言葉は―――今日かぎり。





造られた箱庭で



( 優しい感受性、その花のような思いで決意した )