ベージュを含んだ白の部屋で隼人は居心地悪そうに身動ぎをした。柔らかな雰囲気の室内の中、光りの差し込む窓に異質な鉄格子があった。

呼び出したハルは俯いたままで。


「おい・・・」
とうとうこの空気に耐えられなくなったのは隼人の方だった。けれど呼び掛けたハルは無反応で、じっと爪先を見ていた。

つい癖で煙草に手を伸ばして・・・やめた。


「終わってますよね・・・」
突然顔をあげたハルの言葉に隼人は首を傾げた。それは隼人への言葉ではないようだった。

「おい、何が終わったって・・・」
「獄寺さん!」

「うおっ!」

身をのりだしてきたハルに隼人は体をのけぞらせた。その気迫に息を飲む。


「な、なんだよ」
下がる度にハルは近付いて来て、隼人もさらに後ろに下がった。二人の顔は目と鼻の先で、隼人は思わず斜めに視線を向ける。


「カメラなら、止まってますよ」
「っ!?」

当然のように行ったハルの言葉に、隼人は瞠目した。
それにハルは眉を寄せながら笑って。

「盗聴器も止まってます」

「なっ!おまっ、」
気付いてたのか?と続ける言葉は飲み込んだ。


止まっていると言った。この部屋から出れないハルに止める事は出来ない。

なら、それを、どうやって伝えた?
この閉鎖された空間で。綱吉に違和感を与えることなく。



「ここを、壊します」



真っ直ぐに、その視線が前を見る。
仕事に埋もれているとはいえ、タイムリミットは短いだろう。次に、綱吉がカメラと盗聴器でハルを確認するまでに、始めなくては。


ハルは隼人の上着の中に手を伸ばした。
――ここに、入ってるはず。


「あった!」
「お、おいっ!」
ハルの手に握られているのは隼人のダイナマイト。


「・・・おまえ、分かってんのか・・・?」
ハルがぎゅっとダイナマイトを握り締めた。唇をかみ締める。

「分かってます」

凜とした声が静かに、響いた。握り締めている手は震えていて、目は今まさに涙が零れそうだった。
それをぐっと堪えて、


「ツナさんを元に戻せるのは、ハルだけです」

自惚れなんかじゃない。
それは、事実。


「本当のツナさんがいないのに、ハルが『ここ』にいる意味は無いんです」

例えば、もう一度同じことが起きたとして。危険なことが起きたら一番に自分を護ってくれって約束、守れないと思うんです。
何度、同じことが起きたって・・・。



「ハルは、ツナさんの傍にいたいんです」

凜と言葉が響く。
手足は震えていて、唇は噛みすぎたせいで真っ白になっていて。

何の力ももってないけど。


「ハルは、ツナさんが好きなんです」

ただその想いだけが、心を動かしていた。





たった一つの想いだけで



( 今まで全て走ってきたこと、それをちょっとだけ忘れていた )