扉にもたれて鋭い瞳を向けるリボーンに、綱吉はギリっと歯噛みをした。
その拳は若干震えていた。

「ダメツナ、てめぇは本当にダメツナだな。まったく、俺の教育をしっかりと復習しろ」

「リボーンっ!!」


ふ、と笑いを漏らして言うリボーンに綱吉は苛立ちのままに叫んだ。
噛み締めすぎた唇は真っ白になって、血も浮いていた。

荒い息の音だけが響いて、


「どけっ!」


「全く、学習しねぇな。――お断りだ」


ギラリと、彼の漆黒の瞳が光る。
今までのことからか反射的に身を竦めた綱吉は、それでもともう一度リボーンの目を真っ直ぐ見る。
焦燥が勝っていた。


「リボーン!っ、頼むから!」
俺を、行かせてくれ・・・。懇願するような声に、リボーンは眉を寄せた。

その気持ちは痛いほどに分かった・・・分かったから、こそ。


「もう一度言う。お断り、だ」


「っ!」
綱吉の瞳が泣きそうに歪んで、頬が白ばむ。

どうすればリボーンはあの場からどくのかとあぐねいて、結局何も言えずに唇を震わせながら閉じた。


それからもう一人、さらに綱吉の行く手を塞ぐように足音が届く。

「ツナ・・・待っててやろうぜ」
「武・・・」

お前まで、と言わんばかりに見開かれた瞳に、武は苦笑するしか出来なかった。
綱吉はどうしても二人の考えが分からなくて。

「リボーン、武もっ・・・分かってるだろ!?」
激情のままに叫んだ。


「失いたくないんだ!失うなんて耐えられないんだっ!ハルが居たから俺は人でいれた!多分ハルが居なかったら俺は俺のままじゃいられなかったっ!銃で撃たれたとき、心臓が止まるかと思った。止まればい良いって思った。ハルが、死ぬくらいなら――!」

それくらいに、存在は大きかった。


「俺だけじゃ、無いだろ?」
ハルの笑顔に支えられてきたのは。ハルの笑顔で人でいられたのは。

ハルという存在が、大きかったのは。



「――なぁ!」

だから、邪魔をするなよっ!
泣き叫びそうな綱吉の声に武は苦しげに眉を寄せた。



「・・・それで、ハルの意見は置き去りなのか」

「!」
漆黒の瞳が真っ直ぐに綱吉を刺す。


「失いたくなかったらハルの気持ちを無視してもいいのか?当事者放っておいて、てめぇの自己満足でハルを縛り付けてるだけじゃねぇか」

胸が痛い。涙が溢れそうだった。


「だって、だってっ!」

じゃあハルが死んでもいいのか、なんて言葉は卑怯だと思ったから、出さなかった。
でもそんなことでも言って駄々をこねないとどうしようもなかった。


それくらいに、失うのは恐くて。





君の居ない明日を想像したら



( むしろ涙すら流れる余裕すらないほどの絶望を感じた )