「――それに、惚れた女から逃げてんじゃねぇよ」


「は?」


今までの剣呑な雰囲気すら消え去った。一瞬にして頭が真っ白になっていて。
綱吉は大きく目を瞠った。

それにリボーンは(やけに大袈裟に)溜め息を吐いた。

「全く、気付いてなかったのか。このニブツナめ」

後ろで武が苦笑した。
その中で綱吉だけが会話についていけなかった。

鈍すぎにもほどがある・・・。


「いや、あの・・・えっと?」

戸惑う綱吉にリボーンはにたりと笑った。
この家庭教師・・・楽しんでやがる!

綱吉はずっと立ったままだったけれど、立ち眩みをしてしまうそうだった。


「惚れてる女閉じ込めて、いつだって手出せる状態で我慢してるから色々おかしいことになんだよ」

彼は自信満々に言った。
反論したいが、綱吉の思いは言葉にならない。

「さっさと手出しちまえば良かったんだよ」


「な!」

絶句。


今までの剣呑な雰囲気なんて打破してしまって。
綱吉はパクパクと口を動かすことしか出来なかった。

「本当に、てめぇはダメツナだな」
はっと吐き捨てるのと同時に漸く硬直が溶けた。


「な、なななな何言ってんだよ!それと今は関係ないだろっ!」
「大有りだ、馬鹿ツナ」
いいか、と綱吉に指を立てる。


「てめぇがハルを閉じ込めた理由は、死んでほしくないなんて可愛いもんじゃねぇ」
ギラリとリボーンの瞳が光る。
鋭く刺さる目に綱吉は息を飲んだ。

「な、」


「お前は、ハルを何かに奪われるのが嫌だったんだよ」


子供じみた独占欲だ。
いい加減認めてしまえと見つめる視線に戸惑う。



「骸とクロームにも嫉妬しやがって」
「あ、あれはっ」
少し前の骸からのメールを思い出して詰まらせた。

勿論その隙を逃してくれるような家庭教師ではなかった。


「骸がハルに手を出したら?」

「出す前に燃やす」

真剣な顔で言った綱吉にリボーンがふ、笑う。
親のような、優しい笑顔で。


「改めて言ってやるよ。――ツナ、お前はハルに惚れてんだよ」


思考はぼんやりとする、口はカラカラで、声は遠くて――頬に熱が集まった。





その瞳は、恋を孕んだ



( ああ、どうしよう、どうしたらいい、今更これだけ長い間一緒にいて )