「了平、今僕らが言ったって無意味だよ」 勢いを増す了平の言葉に、恭弥がストップをかけた。それに了平はうむと頷いて言葉を止める。 分かっていた。 綱吉と同じ立場にいる自分たちが何を言ったのだとしても、結局失いたくないという根底のところで否定できなくなるのだから。 だから、こそ。 「まぁ、どうせあと少しなんだし、待ってなよ」 足音は近い。 一つはあまり音の立たない足音と、小さく軽い足音が続いていて、僅かに声も聞こえた。 閉じた扉まで、近づいてくる。 「どうせ、ここから出ても、外で止めて会うことになるんだから、ここにいたって一緒でしょ」 その言葉に綱吉は否定しようとして上げた声は荒々しい扉の音に消えた。 「・・・は、やと・・・」 その勢いのせいで扉が閉じる。 綱吉の目線の先には今にも泣き出しそうな顔の隼人がいて。 綱吉が何かを言う前に隼人は大きく頭を下げた。 「っ、すみません!十代目!」 唇を噛み締めて、綱吉の望みから逸れてしまったことを悔やむかのように・・・けれど、一途に幸せを祈るように。 目の端には涙すら浮かんでいて。 「すみませ、すみません、十代目!」 何度も謝って、それから扉の前から離れた。 何も言わなくたって分かる。 扉の向こうで躊躇うような気配が一つあって、綱吉は言葉を失った。 ここで感じるのには、悲しいまでに懐かしい気配。 「・・・」 口が、その名前をなぞるように動いた。まだ、音は出てない。 そっと、ドアノブが動いた。 半分だけ動いて、止まって、それからまた動く。 ガチャリと音が鳴って、ギィっという古びた音と一緒に扉が開き始めて。 時間にすれば数秒も無かったけれど、綱吉には酷く長く感じた。 「――」 また、口がその名前をなぞる。 やっぱりまだ音は出ていなくて、段々と開いていく扉をじっと見つめていた。 手が震えた。 何の障害物も無く真っ直ぐにある扉が、どんどん開いていく。 膝が笑っていて、喉はからからだった。 光が差し込んで、風が滑り込んで、綱吉は息を呑んだ。 扉が、開く。 「・・・ハ、ル」 扉が開いた、その先にいたのは――。 真正面から綱吉だけを見つめる、ハル。 「ツナ、さん」 声は、震えていた。 |