荒々しい足音が聞こえて、それがリボーンちゃんじゃないっていうのはすぐにわかった。
こんなにドスドス重い音はしないし、それ以前に音すらしないで走るんですから。

「っ――!」
敵、が来たんだ。
リボーンちゃんが負けて敵を通したなんてこと無いと絶対に知ってるから、多分この人たちは別ルートで来た人たちなんだと思う。

そう考えているうちに、荒々しく扉が開いた。


「・・・沢田ハルだな」
見たこともない金髪のサングラスをかけた人。

「――はい」
一歩近づいてきて、反射的に一歩後ろに下がった。銃はさっき後ろ手に隠しておいた。
その人がまた一歩近づいてきて、ハルはまたうしろに下がった。


「動くな。大人しくしていれば殺しはしない」
半ば脅すように銃を向けてきて、また少しずつじわじわと近づいてきた。
ハルもどんどん下がるけど、最後には壁に邪魔されて、どんどん距離が近づいてきた。



後ろ手には、銃。

捕まったらこの後どうなるか、なんて分かってる。

教えるのを渋ってしまったツナさんの代わりに、骸さんがいいですか、と教えてくれたから。
特にボンゴレ夫人ともなれば見せしめもあるし、最後にはつかいものにならないほど痛めつけられてから殺されるって・・・だから、もし何かがあって、そんな目にあいそうになったら。

死ぬんだ、って・・・自分で命を絶つんだって。
後ろで聞いていたツナさんが、決意したように深呼吸をして言った。


――『死んでほしくなんてないけど・・・でも、ハルをそんな辛い目にあわせたくなんてないから。そんな目には絶対にあわせないようにするけど・・・でも、覚悟を・・・覚悟、をしててほしい』

そう苦しそうに言ってくれたツナさんに、ハルは迷うことなく頷きました。
ツナさんのためなら何だってできるって思ってた。



・・・でも。
反対の手でこっそりおなかに触った。
数歩前で立ち止まってる敵の人は、ハルが降伏するのを待つようにそのまま立っていた。

ハルが死んだら、この子も死んじゃうんですよね・・・。
まだツナさんは死んでないかもしれないのに、せっかくツナさんも待ってた新しい命を、ハルのツナさんのためならっていう想いだけで殺してもいいの?

たくさんの女の人の中で、ハルを選んでくれた子なのに。


「・・・い、や・・・」
死にたくなんてない、死なせたくなんて――ない。

ごめんなさい、ツナさん。ハルが傷つくことも、傷つけることもさせないようにって護ってきてくれたけど。

でも、ハルはお母さんなんです。
ハルを選んでくれたこの子の、ハルはもうお母さんになってるんです。


「・・・絶対に、護ります」
後ろ手に隠してあった銃をこっそりと安全装置を外して、引き金に手を当てた。
リボーンちゃんがこれをくれたのは、多分ハルでも簡単に扱えるものだからって思ったんだろうと思う(その証拠に比較的軽いやつで)。

律儀にじっと待っている目の前の敵の人に、ごめんなさいと謝って、それから銃を向けて間髪いれずに引き金を引いた。


この距離で、外れることがないってことくらいは、知ってるんです。





ここに護るものがあるのなら



( 恐ろしくて出来なかったことですら、してみせる )