どうして、その隣に立って共に闘えないのだろう。
(03.その手を伸ばせない)
「京子ちゃん、ハル!チビ達を連れて後ろに!!」
緊張と厳しさを含んだ声で彼はそう叫び、女子供を後ろに庇った。前方に黒服の男達が数人立ち塞がっている。
ハルは咄嗟にランボを抱きかかえて後ろに下がった。すぐ傍に、京子がイーピンを抱き締めている姿がある。
イタリアからの『訪問客』はこれが初めてではなかった。それゆえにまだ比較的冷静でいられた。
もちろん最初こそ驚き、泣きそうになったものの―――――全て綱吉達が助けてくれたから。心配することなど、ない。
ハルと京子は視線を交わし頷きあって、リボーンに示された物影へとその身を隠した。
最近特に、こんなことが増えてきている。気のせいではなく。多分その激しさは何かの前兆なのだろう。
何か、は考えたくない。それを考えて認めてしまったら、取り返しの付かないことが起こる予感がして。
「十代目!こっちは任せてください!」
「んじゃ、俺はこっちなー」
「うん、頼んだよ!」
声を掛け合った彼らはそれぞれに武器を構える。そして綱吉は、その額と両手に綺麗な炎を浮かべるのだ。
ハル達はただ、その様子を見守ることしかできなかった。いつもいつも、ただ見ているだけの日々が続く。
――――あの基地の中では、家事をすることで皆の支えになることが出来た。
洗濯、料理、掃除。そして、話を聞くこと。いつも通りに生活すること。それが一番重要だとビアンキは笑っていた。
でも今はどうだろう。ランボ達を抱き締めてただ、蹲っているだけだ。恐怖に震えながら、ずっと。
「もらったぁああああ!」
「―――――遅い」
「もっと歯ごたえある奴はいねぇのかよっ!果てろ!」
「楽勝楽勝。つーか今日は人数少ないのなー」
戦う姿は、ハルの目に留まらぬ速さであちこちを自由に動き回る。その背中が普段よりも大きく見えた。
守られていると実感するのは複雑な気分だった。嬉しいけれど、頼もしくて格好いいと思うけれど、……寂しい。
ハルはふと己の両手に視線を落とした。小さなランボひとりを抱えるだけで精一杯な、細い腕。
誰かを殴ったこともない白い手。こんなもので何が出来る?今でもこの両足は震えているというのに?
「………ハルちゃん?大丈夫?」
「えっ……は、はひ!ついツナさんに見惚れちゃいましてっ」
「あはは、分かる分かる。獄寺君も山本君もツナ君も皆―――ほんとうに凄いもの」
「了平さんも、ですよね」
「………うん。お兄ちゃんも」
掟だとかなんとか、よく分からないけれどリボーンは戦いに参加しないらしく、ハル達の傍にいる。
それはきっと見守ってくれているのだろう。だからこそ、恐怖の中でもこんな会話で気を紛らわせられる。
ふと、リボーンの立っているところから視線を感じたけれど。ハルは気付かない振りをして京子に笑いかけた。
赤ん坊だという彼の、不思議と吸い込まれそうな瞳を見てしまえば全てが暴かれるような気がしていた。
どうして、この手は彼に届かないのだろう。どうして、この足は竦んで動かないのだろう。
どうしてこの身体は――――闘う力を持たないのだろう。
私は、あの場所に立ちたいのに。
(力が、欲しい――――)
そんな愚かな望みを持っているなんて、誰にも知られたくはなかったから。