間違いは、正さなければならない。

 

手遅れになる前に。

 

 

 

 

 

これ以上、仲間の到着を待ってはいられなかった。

綱吉は骸にディーノが示した病院に向かうことを告げ、そのまま電話を切った。

 

慌てた様子で何事かを問う彼の言葉を無視して。傍らの少年の、咎める様な視線を無視して。

 

 

(来たら許さないって・・・・言われた、けど)

 

 

場所が違うし、何より犯人は捕らえてある。他に増援が来ようと関係ない。

 

―――――己の道を塞ぐなら、消えて貰えばいいだけのこと。

 

薄っすらと笑む自分に気付かないまま、綱吉は携帯をしまい込んで会議室の外へと歩き出す。

その後ろを黙ってついてくるリボーンは、もう何も言わなかった。目深に被った帽子がその表情を隠している。

 

 

言わせなかったのは自分だと、本当は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

珍しくボス自らが運転する車に乗って、リボーンは手に持った狙撃銃をもう一度検めた。

綱吉の両手が塞がっている以上、直ぐに動けるのは自分だけ。準備だけは万全にしておかなければならない。

 

ボンゴレ本部から一歩出れば、否、ボンゴレ内部ででも命を狙われる存在、それがドン・ボンゴレ。

 

だから二人だけで行くのは反対だったんだ、と苦々しく思う。それでも、口には出せなかった。

 

 

会議室で綱吉は詳しく語らなかったが・・・・場所が変更されたその先の名前を聞いて、リボーンは全てを理解した。

そこはキャバッローネが統括している医療機関のひとつ。つまり、ハルがそこに運ばれたということ。

 

 

(少し前まで意識があって普通に喋っていた。なら―――)

 

 

最悪の事態にはならないだろう、そういう見当はついていた。

しかし物事に100%など有り得ない。今行かせずにいつ行かせる?何があるかも分からないのに。

 

綱吉から感じる違和感も、彼女が無事だと分かれば・・・もしかしたら、消えるかもしれない。

 

 

 

「―――ツナ。急げよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・わかってる」

 

 

 

僅かな光に縋るように。救いがそこにあるとでもいうかのように。

 

二人を乗せた黒い防弾仕様の車は、制限速度を優に超える猛スピードで街中を通り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。・・・・珍しいわね、アンタみたいな男が此処に来るなんて」

「丁度良かった、今お茶が入ったところなの。雲雀君もどうかな?」

 

 

 

ハルからの要請を受けた形で、笹川京子を探し続けて早15分。

自室にも了平の部署にも居なかった彼女は、中庭でビアンキと呑気にティータイムと洒落込んでいた。

 

余りにものんびりとした空気に、一瞬雲雀は脱力しかけた―――が、何とか自身を取り戻す。

強固なセキュリティで護られた中庭、加えて毒サソリと呼ばれる殺し屋が一緒ならば問題はない。

 

ボスとしては甘すぎる綱吉が“血腥い話をあまり聞かせたくない”等と腑抜けたことを言っていたことが頭を過ぎる。

 

 

雲雀は敢えて何かを告げる気もなくなって、そのまま踵を返そうとした――――

 

 

 

次の瞬間、耳元を何かが凄い勢いで掠めていった。

 

数秒後、前方の生け垣の一部が奇妙な色の煙を立てて爆発する。不快な臭いが辺りに広がった。

 

 

 

「無視するとは良い度胸ね・・・・・」

「別に。悪いけど、今君と遊んでる暇は無いんだ」

 

 

 

二人が囲んでいるテーブルには、色とりどりのケーキが沢山置いてあった。

が、今ビアンキが両手で掴んでいるそれは形容し難い色に変わり、所々虫が湧いている。

 

真正面からぶつかればただでは済まない。仕方がないので手っ取り早く黙らせようと思ったのだが―――

仮にも殺し屋。相手にするには時間もないし、黙らせてしまえば笹川妹を護る人間が居なくなる。

 

 

どうしたものか、と半ば真剣に悩み始めた雲雀の耳に、聞き慣れてしまった足音が届く。

 

 

(・・・・はぁ。また五月蝿いのが来た)

 

 

どたばたとやかましいその音は、予想通り中庭の入り口付近でふっと消えた。

 

 

 

そして響く―――声。

 

 

 

「くぉらっ!雲雀てめー、十代目の指示も聞かずに何勝手なこ・・・・・っ?!」

「ハヤト・・・ああ、私に逢いに来てくれたのね。嬉しいわ」

 

 

 

怒鳴り込んできた獄寺は姉の姿を見て硬直した。昔は会うたび失神していたものだが、成長したらしい。

しかし真っ青になって後ずさる様は見ていて滑稽なほど。雲雀はターゲットから外れたのを幸いと出口へ移動する。

 

 

 

「あ、あ、ああ姉貴っなななな何で此処に」

「彼女とお茶をしていたのよ。ハヤトも食べなさい、このケーキ美味しいから」

「ちょ、ま、姉貴待っ、それポイズンクッキン・・・ぅぐっ!」

 

 

 

笹川妹はおろおろとそんな二人を見比べて突っ立っているだけ。雲雀の事などすっかり忘れているようだ。

 

二人を残しておけば自分のやる事はない、と今度こそ踵を返すと、目の前に了平が息を切らせて立っていた。

 

 

 

「・・・・・それで?」

「ここは俺とアイツに任せろ。お前は沢田の所に行ってくれ。六道が連絡係だ」

「そう。じゃ、頼んだよ―――アレ」

 

 

 

中庭の方へちらりと目をやる。獄寺は白目を剥いて泡を吹いているようだが、ビアンキが止まる気配はない。

 

このまま中に入れば即次のターゲットにされることは想像するに難くなかった。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きょ、極限任せろ!」

 

「ま、頑張れば」

 

 

 

死なない程度に、ね。