彼女の行動は、正しい。
だからといって―――到底認めることなど出来なかった。
青に、溶ける
綱吉が静かに眠るハルに歩み寄るのを見届けてから、リボーンは踵を返して病室を出た。
暫くはそっとしておいてやろうと結論付け、廊下に佇むかつての弟子を見やる。その表情は少し暗い。
「で、例の奴らはどこに居る?」
「ああ・・・今地下で、ロマーリオ達に任せてる」
「―――何が分かった」
そう問うと、ディーノは一瞬顔を歪めて黙り込んだ。あまり幸先が良いようには思えない。
やはり背後に何らかの組織が?・・・・ハルを傷つけた以上、全面戦争は免れないにしても・・・・厄介な事である。
どうやって、いつ、どこで仕掛けるかも問題だ。
うちのボスは何一つ逃すつもりはないだろうから、その準備も万全に――――
様々な方向へと考えを巡らせていたリボーンの耳に、何とも微妙な声音の、困惑に満ちた声が届いた。
「なあ、リボーン」
「何だ?」
「お前らが来る前に聞き出したんだけどよ」
彼は言いにくそうに、というか顔全体に苦笑を浮かべてそれを告げた。
「あいつらハルのこと、“笹川京子”だって―――マジで信じてたらしいぜ」
「・・・・・間違った情報を入手してたのか?」
「いや、違う。ハル自身がそう言い張ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
リボーンは思わず舌打ちを零した。何を馬鹿な事を、とそう思った。
胸に湧き上がるのは怒りと、焦りと、・・・・・何処にもぶつける事が出来ない苛立ち。
連中に『お前は笹川京子か』と問われ、ハルは迷うことなく頷いたという。
―――何の為に?分かっている。
被害が本物の笹川京子に及ばないように、被害が三浦ハル本人だけで済むように。
「確かにな、否定したところで“間違えました。はいサヨナラ”って訳にもいかねぇだろうし」
「拘束された挙句本物の京子も狙われる、か。咄嗟にしちゃ正しい判断だな」
「・・・・褒められたことじゃ、ねーだろ」
「ああ・・・」
被害を最小限に抑えたこと。それは、マフィアの一員としては確かに評価できる。
だがしかし、仲間として。彼女を良く知るこちら側としては到底許容できることではなかった。
『馬鹿なことをするな、己の力量を知れ。お前は自分の身を守ることだけ考えていればいい』
今すぐ病室に戻ってそう詰ってしまいたかった。麻酔で眠っていなければ多分、そうしただろう。
あの時のハルに出来る精一杯だったのだと、命を掛けてそうしたのだと、理解している。
(ツナに知らせるのも・・・・今は止めておいた方がいい、か・・・?)
彼女がとった行動は正しいのだと、それが最善だったのだと、頭で分かっていても―――
きっと、責めずにはいられないだろうから。
「ディーノ。それ、ツナには黙っとけ」
「やっぱあいつ・・・怒る、よな?」
「怒るだけで済めば御の字だろうが」
「うっ・・・」
心なしか青褪めるディーノ。ツナが既に怒っているのはもう会った時点で分かっているだろう。
これ以上その怒りに油を注がない為にも、余計な情報を与えるのは止した方がいい。
それより他に何か情報は―――と聞きかけたリボーンを遮るように、軽快な音が鳴り響いた。
「・・・・・・骸か」
『ええ。こちらの調整が終わりましたので一応ご報告をと思いましてね。
恭弥君とクロームがそちらに向かっています―――後十五分程度で到着するかと』
電話の相手は、連絡係の骸だった。
雲雀が此処に来るということは、京子は無事に保護出来たということ。
聞けば守護者二人に加えてビアンキまで一緒に居るという。このメンバーを倒せる敵などそうそういる訳が無い。
『ところでハルは、どういう状態なんですか?』
「無事だ。命に別状はない―――少し熱が出ただけだ。今はツナがついてる」
『そうですか・・・・わかりました。これでクロームも安心するでしょう』
「ああ。お前の方から伝えておいてくれ」
その後二言三言話した後、リボーンは骸との通話を終え携帯をしまいこむ。
―――舞台は整った。役者ももう少しで揃う。
後は、踊らせる相手を其処へと引き摺り出すだけだ。
ボンゴレに手を出すとはどういう事かを、身を以って知るがいい。
「乗りかかった船だからな。俺も手伝うぜ」
「なら二人が到着次第、―――動くぞ」