嫌な予感。
しなかったと言えば、嘘になる。
でも電話がすぐ繋がったことで、安心―――して、いたんだ。
青に、溶ける
定例議会・・・それは定期的に行なわれる、ボス及び各部署の主任が集まる報告会のこと。
今回はボンゴレ周囲で少々不穏な動きがあるという噂もあって、わざわざ日本から駆けつけた者も居る。
つまりは今日、ボンゴレ・ファミリーにほぼ全ての守護者が集まっているという事に他ならない。
そこにボンゴレ随一のヒットマン、リボーンと情報部主任三浦ハルを加えた、総勢八名で行なわれる極秘の会議。
―――しかし、予定されていた開始時間に姿を現さなかったものが、一名。
「めっずらしーな。ハルが遅刻とか」
「どうせアホ女の事だから外で余計な道草食ってんだろ。ったく、何やってんだあいつ」
ハルはああ見えて結構律儀な人間だ。何かの会合に遅れたりすることは殆どないし、あっても事前に連絡が入る。
だからこうやって何の連絡もなしに遅刻する―――それも定例会議にだ―――のはかなり珍しい事だと言えた。
「ハルは今日出張で外に出てたな、ツナ?」
「うん確か、昼から出張で・・・・予定では会議の三十分前位には此処に帰還するって聞いてたんだけど」
「ああ、では先方の都合で延びたのかもしれませんね」
例の社長、滅多に時間を守らないことでかなり有名ですから。骸はそう言って皮肉気に微笑む。
彼らは知らなかった。情報部主任であるハルは、その事すらも含めて所要時間を計算していたのだということを。
今、この場にハルが居ないという状態が、いかに異様であるのか。いかに危険なことであるのか。
彼らには、知る由もなかった。
「困ったものだね。今回は彼女の情報がないと話が進まないんだけど」
「よし、わかった!――極限任せろ!!」
「何をだよ」
雲雀はふぅ、とこれ見よがしに溜息を吐いた。それを受けてか笹川兄が徐に立ち上がって何故か叫びだす。
半眼になった獄寺の冷静且つ鋭い突っ込みが飛ぶも、それは極限にスルーされてしまった。
兄、強し。
「つまり三浦に連絡を取れば良いのだな!さあ、雲雀。携帯を寄越せ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?なに、いきなり」
「お前は最近良く三浦と携帯で話しているではないか。仲が良いのだろう?だから携帯を寄越すがいい!」
胸を張って、自信満々に、彼はそう言い切った。
表情は至極真面目だが、断られるとは微塵も思っていない様子に雲雀は軽い脱力感を覚える。
「あのさ、仲が良いとか訳分からないよ。大体あれは仕事の連絡で――――」
「俺は随分と長く日本支部に居るからな、携帯番号を知らんのだ。悪いが借りるぞ」
本人以外から番号を聞くのは俺の主義に反するのだ、とかなんとか言って彼は一人頷く。
思い込んだら一直線の男、笹川了平。成長して更に磨きが掛かった彼は、雲雀であろうと対処は難しい。
まして発言が突飛過ぎて少し混乱していた所を狙われたのだ。流石ボクサー、フットワークはお手の物のようで。
・・・・・・・・・・・結果。
比較的あっさりと、雲雀は携帯を奪われてしまった。有無を言わせないその勢いに誰も口を挟めないまま。
了平は手に入れた携帯を何の躊躇いもなく開き、アドレス帳からハルの名を探す。
登録されている名前が少ない為それは直ぐに見つかった。それは、幹部にしては人付き合いが少ないという証拠で。
「ふむ、・・・・雲雀。お前はもう少し友人を増やした方が良いと思うのだが」
「余計なお世話だよ、って何人の携帯勝手に弄ってるのさ。咬み殺すよ?」
「む?ちゃんと貸してくれと頼んだではないか」
「あれのどこが頼んだって―――」
超マイペースで事を進める晴の守護者は、雲雀の殺気すら意に介せず、さっさと通話のボタンを押してしまった。
そんな事態になって漸く、今まで硬直していた他の連中が息を吹き返して慌てだした。
「ちょ、ちょっと了平さん、ハル仕事中だったらどうする気ですか!」
「その時はその時だ!沢田。問題はないっ」
「大有りだろ!?」
普段あまり表に出ることが少ない情報部主任が、わざわざ出張する。その意味は明白だった。
情報部にとって、或いはボンゴレにとっても大事な取引であるということ。出来れば邪魔はしたくない。
しかし―――心配なのは誰も同じ。声を聞いて、安心したいという思いがあったことは否定できなかった。
「やはり一度メールを送って、反応がなければ電話する―――という形をとってはどうでしょう?」
「メールか・・・それ良いんじゃね?な。いいだろ?」
「・・・・・ふむ、確かに。それはそれで一理あるな・・・・」
仲間からの説得に、ハルの立場を考えず少し先走っていたことを反省する了平。携帯片手に考え込む。
雲雀はその隙にさっと自分の携帯を取り戻し、それをポケットに仕舞いかけて―――通話中、という表示に手を止めた。
『――――、―――――?―――――』
ほんの微かに声が聞こえる。聞き慣れた声だった。・・・・・・繋がっていたのだ、既に。
あれだけ放っておけば繋がりもするか、と軽く溜息を吐いてそれをそっと耳に当てる。
「ハル?・・・ねえ。・・・・ちょっと。――――聞いてるの、ハル?」