「…おま、お前はっ馬鹿か――――!」

 

 

リボーンの絶叫が何故か耳に心地良かった。

馬鹿でも構わない。彼女と離れてしまうことに比べれば、そんなこと。

 

 

 

 

 

 

あれだけ降り続いた雨が止み空が白み始めたころ、ボンゴレ十代目ボスである沢田綱吉は本部に帰ってきた。

 

その腕に、―――寝ているのではなく明らかに気絶した、三浦ハルを抱いて。

 

 

 

「あ、ただいまリボーン。まさかずっと起きてたの?」

「………っ……」

 

 

 

あまりにも爽やかすぎるその笑顔に、リボーンは我ながら珍しくぽかんと口を開けてしまう。二の句を告げられない。

 

帰ってきた、ことはいい。この時間だと十分朝の会議にも間に合うし、そもそも彼女を見つけている。

だがしかし、しかしだ。連れ帰ってきたということは―――ちゃんと告白して、OKを貰ったということだろう?

 

 

(それにしてはハルが……いや、……まさかな)

 

 

嬉しさよりも考えたくない疑念ばかりが生まれる。傍から見ても上機嫌すぎる彼は悠々と廊下を歩いて行く。

やがて綱吉はにこにこしながら彼の自室の前まで辿り着き、両腕が使えないから開けてくれと言ってきた。

リボーンは思わずそれに従いつつ、中に入ってハルを自分のベッドに大事そうに寝かせる様子を見守るしかない。

 

 

―――愛おしそうな仕草でハルの髪をかきあげる綱吉の姿に、我慢できず問いかけた。

 

 

 

「おい待て、ツナ。一体どうなってる?」

「え?何が?」

「っ、だから何でハルが気絶してるんだ!まさかお前―――」

 

 

 

ハルだけでなく京子にも引っ叩かれて、己の愚かさを自覚したのではなかったのか。

自分の間違いに気付いて仲間にも呆れられて、それを正す為に迎えに行ったのではなかったのか。

彼女の意思を無視することなく、受け入れ、お互いが少しずつ歩み寄る道を選んだのではなかったのか。

 

 

そんな悲壮な思いを込めて綱吉を睨みつける。………と、そいつは予想外にも赤面しやがった。

 

 

 

「いや、まあ、その、何ていうか……」

「……………ツナ?」

「単にやりすぎたかな、っていうかその―――」

 

 

 

ナニをだ。反射的にそう返しそうになって、リボーンは寸前で言葉を押しとどめた。

長年の勘がこれ以上この問題は追求しないほうがいいと告げている。がしかし、かなり気になる。

 

もじもじと恥ずかしがる綱吉が何とも言えず気色悪い。まさか。………まさか?

 

 

(そういや、ハルの服装が別れた時の黒スーツとは違―――)

 

 

浮かんだ想像がやけにリアルで、いつの間にか片手に銃を握っていた。無論標的は決まっている。

 

 

 

「な、リボーン!いきなりなん、」

「てめぇ……“朝帰り”したら殺す、っつったよな」

「だぁっ!し、してないって、なに誤解してるんだよ!」

「――どもる所が怪しいぞ」

「だからしてないってば!!」

 

 

 

赤かった顔を更に赤くさせて綱吉は叫ぶ。その慌てぶりは、読心術を使うまでもなく嘘ではなさそうだった。

そうでないなら、一体何をやりすぎたというのか。無理矢理気絶させて連れ帰ったのではないと信じている。

 

 

(だからといって―――この状態を見ると)

 

 

本当に合意を得たのかどうか、疑いたくもなるというものである。やはり一度はっきりさせるべきだ。

リボーンは構えていた銃を下ろしてそれを手の中で弄びつつ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「なら何でハルが気絶してる?お前、何をやらかした?」

 

 

 

出来る限り優しく、怒らないから言ってみろ―――的なニュアンスを込めて。

それが効いたのかどうか。綱吉はちらりとこちらを窺うと、顔を赤くしたままぼそりとそれを口にした。

 

 

 

「……………キス」

「は?」

「………っ、だから、キスだよ!」

 

 

 

理解した瞬間、目の前で身悶える十代目ボスを撃ち殺したくなったのは責められるべきことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後リボーンは優に三十分かけて、時折湧く殺意を抑えつつ、じっくりと話を聞いた。

 

―――曰く。

超直感の力か、ハルの隠れ家を突き止めたので即突入し、驚いた彼女に逃げられそうだったのでまず押し倒した。

ここでまず突っ込みたかったが我慢する。そしてなんとか告白し、その際勢いあまってキスしてしまったという。

 

そしてその柔らかさに骨抜きにされて、もう一度、今度は気絶するまで夢中になって続けてしまった―――と。

 

 

 

「だってリボーン、いちいち反応が可愛いんだよ?!そりゃ俺も悪かったと思うけどさ」

「…………」

「でもその後いつまで経っても起きないし、かといって会議すっぽかすわけにはいかないし」

「……それで?」

「入る時に壁壊しちゃったから、誰でも入れちゃうんだよね。そんな所にハルを一人置いていけるわけないだろ?

そうでなくてもあの辺りは治安が悪いんだし、もし何かあったら―――」

 

 

 

確かに、隠れ家の場所周辺には浮浪者も沢山いる。意識のないハルを放置していくのは危険すぎる。

それは認めよう。認めてやるとも。半分以上惚気話だったとしても、それは否定できない事実だ。

 

 

――――それ以前の問題があることを除けばな!

 

 

 

「……ツナ。殴っていいか?いや、むしろ撃つ」

「なんで?!ちょっ、俺が何したって言うんだよ!」

「っ、馬鹿かお前は――!その頭は空か、脳味噌溶けてんのか!?」

 

 

 

詳しく話を聞いて良かったのか悪かったのか、こいつ浮かれすぎて重要なことを忘れてやがる。

 

 

 

「お前ハルの返事聞いてねえだろうが、このダメツナ!」