今まで何気なくしていたことが、突然別の意味を孕むような。
気のせいだと頭では分かっているのに――――手を伸ばせないのは、なぜ?
(01.その距離が縮まらない)
リボーンに綱吉を呼んで来るよう頼まれて、文句を言う獄寺を尻目に喜び勇んで彼の教室へちょっと小走り。
やっぱり好きな人に会えるのは嬉しいと思いながら、普段と違うスカートをひらめかせて。
ハルの、笹川兄妹に協力して貰いながらの決死!並森中学校潜入も、今では日常と化している。
あのデンジャラスな雲雀も並森の制服を着ている限り黙認することにしたようだ。
(最初は不法侵入がどうの、ってトンファー振り回してきましたからね、はひ!)
それで漸く―――皆の中に、溶け込めたような気がしていた。なんとなく、下らないことかもしれないけれど。
「ツーナさ……ん…?」
目的の教室の扉を開いてすぐ目に飛び込んできた光景に、ハルははっと息を潜めた。
夕日で赤く染まった教室の中に、たったひとり、見慣れた髪型の少年が机に突っ伏している。
(寝て、る、んでしょうか……)
よくよく耳を傾けてみると、規則正しい寝息が聞こえてきた。目を凝らすと僅かに肩も上下している。
疲れて、いるのだろうか。授業中ならともかく、放課後、こんな時間にこんな所で寝てしまうほど。
最近はかなりの頻度で“修行”とやらをしているようだった。差し入れも出来ないほど遠くへ行ったりも。
それが……ほんの少し、寂しい。少しでも力になれたらと消化の良いおかずを考えて作ったりしていたのに。
常に関わっていたいと思うのは、単にハルの我儘だと分かっている。分かっている、けれど―――
「…………ん…」
「っ?!」
「……………………こら、ランボ……それ手榴弾だろ……」
「………はひ……」
寝言に心臓が止まるほど驚いて、ハルは教室の扉に背中からへばりついた。何も悪いことなどしていないが。
呼びに来たのだから早く起こさなければと思うのに。そういう使命を帯びてここに来たのに、動けない。
簡単なはずだった。ツナさん、と声を掛けて――――起きなければ少し肩を揺さぶって。起きてください、と。
「―――――――」
それなのに、言葉が出ない。窓際で眠る彼の所へ、近づくことすら出来ない。頭の中で警鐘が鳴っていた。
無防備に寝顔を晒す綱吉に触れたら、何かを壊してしまいそうな予感がしていた。ぼんやりと、そう思う。
昨日は部活で会えなかったけれど、一昨日は帰り道で偶然出会ってすぐに腕を組みに行った。触れたのだ。
(だったら、どうして……?)
分からない。何も分からない。ただ、駄目だと心が叫んでいる。
ハルはそれから綱吉が自分で目を覚ますまで、ずっとそのまま立ち尽くしていた。
「ってめ、十代目を迎えに行くのにどんだけ時間掛かってんだ!道草か?!」
「ちょっと迷っただけじゃないですか!そうきーきー怒鳴らないで下さいっ!あ、ツナさん本当にごめんなさい!」
「いやいやいいって。俺もすっかり寝入ってたみたいだしさ、結構すっきりした」
「あの程度で寝こけるとは、お前もまだまだだな」
「誰の所為だと……リボーンお前、スパルタ過ぎるんだよ!」
「……いいだろう。明日から特別メニュー追加してやる」
「っ、止めてくださいお願いしますー!!」
皆と合流した途端、いつもの空気が戻ってくる。ハルはそっと胸をなでおろして息を吐いた。
彼らにやんわりと別れを告げられるのは、そう遠くない日の―――――