年が明けた。
もう、最後の年が来たんだと、そう綱吉は白く染まる息をはぁと溜息のように吐いた。


「ツナさん!おはようございます!」

ぴょこん、と目の前に現れたのは季節を問わず元気に動き回るポニーテールの・・・いや、もう高校に入ってからポニーテールは卒業したらしく、長く黒い髪を背中に流した少女が、にっこりと変わらない笑みを見せる。
それに綱吉は少し苦笑を浮かべると、ぎぃっと扉の音を鳴らしながら答える。
「うん、おはよう」
「はひ!今日も寒いですねぇ」
「まだ年明けたばっかりだしな」
はは、っと笑いながらそう言うものの、最早家族のように毎日一緒に(いつのまにか)いる彼女は、勿論年明けの日もぎりぎりまで家に居て、年が明けて一番に挨拶に来たのも彼女だった。
(ちなみに、隼人を出しぬいてやってきたらしい)

つまりは、昨日もあったばかりだ。

「女子は大変だよな・・・スカートだし」
ちらり、と視線を下せば、そこに映るのは白く眩しいスラリとしたおみ足。
こんな冬だというのに彼女は短いスカートをはき、尚且つその短さを考慮することもなく大胆に動き回る。
そのたびにちらりちらりと際まで見えかけることに、そっと顔を逸らす人物が数名。
これはもう男の子の性だから、仕方がないっていえば仕方がないんだけど。
「はひ!ありがとうございます、ツナさん!でも、足は特に寒くないんですよねー。何故か」
「昔っから短かったから、慣れてるんじゃない?」
「そうですね!」

にっこりと笑う彼女がぎゅっと腕に抱きついてくるのには、それこそもう慣れっこだった。
いや、うん、別にその腕に抱きつく柔らかい感触だとか、ふわりと頭から香るあまやかな匂いだとか。
べ、別にそれがどうとか、うん・・・そういう話じゃ、ないんだけど。
彼氏彼女みたいだとは思いつつも、周りに人がいないと拒絶できないあたり、自分でもどうかとは思っている。



ハルは、本当に可愛くなったと思う。
いや、うん、出会った時から確かに可愛いっていう部類に入る女の子だったんだけど。
なんていうか・・・その、さ、綺麗に、なったというか。

パチリとした黒い瞳は勿論、その風がおきそうな長い睫毛は常にしっとりとしていて。
顔の造形は勿論、すっとした鼻に、柔らかそうに主張する薄紅の唇。
寒さも手伝ってか、淡くまるで頬紅をこらしたような、そんな薔薇色にそまる頬。
歳をとるにつれ彼女の身体は大人へと成熟していき、腕に当たる、その柔らかい感触だとか、厚着しても分かるまろやかな曲線だとか。
すらりと伸びた足は、所謂本来の意味での大根足、というやつなんだろう。
(本当は、昔は細くて白い足のことを、大根みたいな足って言ったらしいし)
指も細くて何も塗っていないのに桜色に染まる爪は形も綺麗で酷く愛らしい。
背中の中ほどまで伸びた髪は毎日手入れをしているのか、枝毛なんて見当たらないほどさらりとしていて尚且つしっとりとした美しい黒髪だった。

最近は、男からの告白もよく受けているらしいし。

若干おせっかいな武からの情報によると、某イケメンの先輩だとか、別のクラスの男子だとか。
京子ちゃんの人気もさることながら、常に明るく天真爛漫なハルに人気がないわけがなくて。

毎回何故かむっとしてしまう綱吉に、武が続けて。

―――「申し訳ありませんが、ハルには一生かけて大好きな人がいるので、お付き合いすることはできません」

と、ハルが断っているらしく。
その“一生かけて大好きな人”なんて、天然組を除けば知らない人なんていないほどで。



「はひ?どうしたんですか?ツナさん」
突然きょとんとしたハルが眼前に、しかも近い位置に現れて、綱吉はぐっと息をのんだ。
考え事をしていて意識が飛んでたらしい。
「あ、いや、えっと、なんでもないよ・・・。そ、そろそろ行こうか」

ふいに振り返れば家からまだ5mも離れていない位置で。
何やってんだ俺、とこっそり内心で思う。


それもこれも、ハルが可愛くなってしまったのが悪い。





全部君のせいだ



( なるほど、あの娘は美しい。しかし、美しいと思うのはお前の目なのだよ。 *クセノフォン )



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