その想いの行き着く先へ



心の中で、なにかが音を立てた。 ...04

日曜日当日。
集合場所は誰が何をどうやったのか知らないが、町内会の集会所の一室だった。
そこは広く、おまけに簡易キッチンや冷蔵庫までついているという豪華なもの。一市民が気軽に使える場所ではない。
リボーンがボンゴレの権力とかで捻じ込んだのだろうか。もしくは、雲雀率いる風紀委員が何かしらの手を……?

いや、よそう。その点はもう深く考えないことにして、綱吉は既に中で準備を始めているはずの彼女達を探した。
(あ、いい匂いだ。台所…?)
漂う美味しそうな料理の匂いに釣られ、奥へと向かう。……そこで見つけたものに、目を疑った。

 

「ハルちゃん、出来たよ。お願いするね」
「了解です!これとこれ、ですね。行ってきまーす」
「でも大丈夫?足元、躓いたりしない?」
「任せてください!これは前のと違って、スリムタイプなんです!」

 

――――なまはげだ。なまはげがいる。なまはげが料理を運んでる?!
(じゃなくて!あいつ何やってるんだよ、やっぱあの着ぐるみ使う気だったんだ!)
ひそかに頭痛を覚えつつ、それでも何か物足りない気持ちで大皿を運ぶなまはげに声を掛けた。
……なんだか無性に複雑だった。

 

「ハル!……だよ、な?」
「はひ?あ、こんにちはツナさん!料理はもうばっちりですよっ」
「それは助かる――っていやいや待てって。ハル、なんでそんな格好してるんだよ!」
「えっ。…ええと、パーティーといえば仮装ですよね!」
「それはハロウィンだろ?!ってかなまはげ関係ないし――!」

 

昨日買っていたリボンはどうなったんだろう、今日つけてくると言ったのに。ふと、そんなことが頭を過ぎる。
それを口に出せなかった理由は分からない。ただ、やっぱり気に入らなかった、なんて答えは聞きたくなかった。
(……どっちか、で悩んでたんだから…実際気に入らないってことはないだろ……?)
ハルが、成り行きとはいえ綱吉と選んだリボンをつけていない。どうでもいいはずの些細な事が心を重くしている。

つーかそもそも、人に選ばせといてそれはないよな、うん。そんな風に内心頷いていると、後ろから声が掛かった。

 

「ツナ君、どうしたの?なにかあった?」
「あ…京子ちゃん。何でもないんだ、ハルがまた変な格好してるから驚いただけで」

 

振り向くと京子がフライパン片手に不思議そうな顔をして立っている。目が合うと、にっこりと笑いかけられた。
彼女は普段どおり可愛らしい服装をしており、なまはげと相まって奇妙なコントラストを醸し出している。

 

「変じゃないです!キュートですよね、京子ちゃん?」
「うん。でも、今朝のワンピースも本当に可愛かったよね。あの青い―――」
「あわわわ、ハル今日はなまはげなんですってばあ!」
「えー?勿体無いよ。後でそれ脱ごう?」
「はひぃ……。あ、あああのツナさんは部屋の飾りをよろしくお願いします!」

 

ばさりと押し付けられた、飾りの入った袋。確かにそれを手伝う為にここに来たのだから当然のことだけれど。
二人だけで分かりきっている、そんな空気に、居心地の悪い思いをしたのは確かだった。
(中に着てるなら、脱げばいいのに……)
ワンピース。もし、その髪に昨日のリボンを付けていたなら。――――付けていたら、どうだっていうんだ?
なぜかその先を考える事が怖くなって、綱吉は思考を止め、両手で袋を強く握り締めた。

……それ以上考えるな、と。頭のどこかで声がする。

 

 

 

 

パーティーはそれなりに平穏に。雲雀がいるにも関わらず、怪我人ひとりも出ず、お開きになった。
片付けが始まる前に雲雀は草壁と共に颯爽と姿を消し、リボーンもまた用事があるとかでどこかへ行った。
(絶対サボったな、あいつ……)
後で文句を言ってやろう。ああいや、雲雀に言うつもりは毛頭ないが。確実に殺される。
仕方なく残ったビアンキ達とで掃除をして、粗方終わった段階でごみをまとめ、下のコンテナに捨てに行こうと
提案すれば山本と獄寺が争うように持って行ってくれた。やっぱり仲がいいな、と改めて思う。

―――ふと。台所から出てきたなまはげ、もといハルの姿が目に入った。何となしに近づく。
彼女は結局パーティーの間、ある程度食事はしていたようだが着ぐるみを脱がなかった。
というのも、ランボとイーピンが異常になまはげを気に入り、纏わりついて離れなかったのである。
こっちはこっちで雲雀と獄寺の諍いや、それを止めようとして結局熱くなってしまう了平や山本を抑えたり
気を抜くとビアンキが食べ物をポイズンクッキングに変えようとするのを止めたりで、とにかく手が離せなかった。

京子がハルの傍にいて一緒に遊んでいてくれたことで、何とか乗り切ってくれたようである。
 

料理とケーキが美味しいのも、こんな風に馬鹿騒ぎが出来るのも――――本当に幸せなことなんだって分かってる。
こんなことがしょっちゅうあるのはごめんだが、偶にならあってもいい。正直、綱吉は楽しかった。
ただひとつ不満だったのは、ハルのことだ。顔が見えない分……ちゃんと楽しんでくれていたのかが分からない。

 

「……ハル。いい加減脱いだ方がいいんじゃないか、それ。チビ達も寝ちゃったし」
「…ツナさん……えっと、でもあの。そのですね、なんと言いますか」
「いいから。脱水症状とかになって倒れたら大変だろ?」
「……………っ……」

 

心持ち語気を強めて着ぐるみを脱ぐように言う。たった数時間のことでも辛いだろうことは理解できた。
それが心配で。そう、ただそれだけなんだからと、何度目かさえも分からない言い訳をして――――


 

 

ひらりと窓からの風に靡いた、薄い青色をしたリボン。恥じるようにか俯いた彼女の髪を彩る、それ。


 

――――そこから記憶がぷつりと途切れた。