少しずつ、暖かさは日々増していく。 それはまるで、別れへのカウントダウンのような気がしていた。 「ツナさん!今日の差し入れです!」 にっこりと笑って、やってきた(勿論崖の上からではない)ハルを危険のない場所で座って待ってもらって、休憩だと一方的に(そりゃもう一方的に)切り上げたリボーンの言葉にぐったりと膝を落とした。 それからタオルを持って走り寄ってきたハルが新妻よろしくそっと汗を拭いてくれるのを、腕が持ち上がらないからと内心言い訳して無抵抗で受けていた。 ・・・いや、だってマジで腕上がんないんだもん。 それから、肩にかけていたカバンから大きいお弁当箱を取り出したハルがにっこりと笑って差し出すそれを、何とか腕を上げて受け取る。 (前、腕が上がらなくて勘違いしたハルに泣きかけられたことがあるので、根性で腕をあげている) どさりと、大きめの岩に腰かけてぱかりとお弁当を開けば、食欲をそそりそうな色とりどりのおかずがふんわりといいにおいをさせて詰まっていた。 はい、と渡されるフォークを受け取って、ぷすりと唐揚げを刺す。 箸だと指に力が入らないもんなぁ・・・。 普段休憩中もやたらと攻撃を繰り出してくるリボーンも、この時だけは静かだ。 「今日の力作はですね!なんと、このなまはげ風煮込みです!」 そう指さされるまま見れば、そこには・・・。 「ハルって・・・こういうことはかなり器用だよな・・・」 あのインパクトたっぷりのなまはげの形に切り抜いたニンジンだとか、大根だとか、シイタケだとか。 ちなみにサトイモは立体的ななまはげの顔の形で、若干シュールな気持ちにさせられる。 「はひ、中々サトイモを切るのは上手くいかなくて、お母さんに手伝ってもらっちゃいました」 「・・・ハルのお母さんも器用なんだ・・・」 何ともコメントできなくて、最後の方は段々声が小さくなっていった。 いや、おいしいのには変わりないんだけど。 「あ、のさ・・・ハル」 「はひ?」 意を決して口を開けば、ハルがきょとんと首を傾げて。 さらり、と髪が揺れる。 言わなくちゃ、いけない。 今年の終わりにはイタリアに行くんだってことを。 どんな時も支えてくれたハルに、俺が、言わないと。 誰でもない、俺が。 「・・・こ、これおいしいね」 「ありがとうございます!」 ああああ、俺の馬鹿ぁああああ!!! 何でここで、おいしいとか・・・いや、おいしいんだけどっ! じろりと、背中にリボーンの痛い視線が降り注ぐのを感じながら、結局口はそれ以上動かない。 だって、この笑顔がもう見れなくなるかもしれない。 自意識過剰じゃなくて、ハルが俺のことを好きっていうのは皆知ってることで。 勿論、俺だって知ってる。 言わなくちゃ、いけないのに。 言わなくちゃ・・・いけない、けど・・・言いたく、ない。 この笑顔を曇らせるなんて嫌だ。 多分きっと、ハルは、泣いて泣いて、だけどきっと笑ってくれるとは思う。 でも、それでも泣かせたくなんてない。 泣かせたくなんか・・・。 「ツナさん、これもハルの力作です!」 「え、あ、うん。あ、おいしい・・・」 「はひ!ほんとですか!?」 指を組んできゃぁっと嬉しそうに笑うハルに、思わず笑みがこぼれる。 泣かせたくない。 泣かせたくなんか、ない。 いつだって笑顔でいてほしい。 だって、俺は君のことが―――。 |