恋をしてるんだと、自覚すると、その感情が止まらなくなってきた。 中学生の時の憧れとは違う。 ただ、その一秒一秒、一瞬の動作にすら、惹かれている自分を思い知る。 「・・・と、いうわけで、この式はこうなるわけです。すると、答えはどうなるかわかりますか?ツナさん」 ハルと隼人の盛大な綱吉を教える権利の闘い(じゃんけん)の後、見事勝利をおさめたハルはここぞと言わんばかりに綱吉の隣に座って、ふふんと隼人に自慢げにしてから綱吉へと教え始める。 ハルも隼人も両方とも頭がいいため分かりやすいのは分かりやすいのだが、どちらかといえばハルの方がわかりやすい。 のは、ハルが子供好きで子どもによく接しているから、相手のレベルに下げるということが分かってるからなんだろうけれど。 「え、っと・・・これは、こうなるんだろ?んで、こうして・・・答えは、3?」 「はひ!その通りです!」 にっこりと満面の笑みを間近で見せられて、思わずぎゅっとシャープペンシルを強く握った。 ハルに教えてもらうのは、ちょっと早計だったかもしれない・・・。 その、白く細い指だとか、ノートの上を走る桜色の爪だとか。 ふわりと動くたびに揺れる髪だとか。 触れたい。 と、そう思う自分がいて。 (流石に、隼人や武がいる前でそんなことはしないけど・・・) じゃあ、二人がいなかったらするのか、って言われたら。 ・・・し、しない、と思う・・・多分。 「ツナさん!」 「・・・へ?」 ふいに、ハルの呼ぶ声で意識を戻せば、驚くほど間近にハルの顔があって。 「・・・っ!」 ぐっと少しだけ下がろうと、そう身体を動かすのに身体がそれに反して動いてくれない。 それよりも、逆に近づこうとする身体を必死で抑えることしかできなかった。 「もう!聞いてるんですか?ボーっとしてちゃダメですよ!」 むっと薄紅色の潤おう唇を尖らせ、ぱっちりとした瞳を上目遣いにして見上げるその顔に、思わず近づきそうになる顔を必死に抑える。 その尖らせている唇に、触れたい、なんて。 「ご、ごごご、ごめん!ちゃ、ちゃんと聞くから!」 近づこうとする自分の顔を必死で押さえながら、ハルの肩に手を置いてそっと引き離す。 (・・・っ!) 華奢な、肩だ。 男とは全然違う、力を入れてしまえば折れてしまいそうな、そんな肩にぐらりと何かが揺れる。 このまま強く押さえつけてしまいたくなる衝動を必死に堪えて、そっと手を離す。 ぐらりぐらりと、手の感触が離れなくて頭の中で何かが揺れる。 けれど、理性の自分がそれを落としてはいけないと、必死で支えるのを感じる。 駄目だ、駄目なんだ。 俺は、ハルを置いていくんだから。 ハルを、一緒に連れていくことはできないんだから。 触れることなんて、できない。 俺はハルをいつか、傷つけるんだから。 その柔らかな肢体に触れることなんて、許されないんだ。 それに、いつかイタリア行きのことで傷つけるのに、今別のことで傷つけられない。 突然、触れたりしたらきっとハルはショックを受けると思う。 優しい優しいツナさんに、突然そんなことされたら。 駄目だ。 そんなの、絶対駄目だ。 ハルには笑っていてほしい。 ずっとずっと、笑っててほしい。 だから、だから。 (―――でも、好きなんだ) |