「つ、ツナさん!こ、こここ、これ!ば、ばば、バレンタインのチョコです!!」


びしーっと突き出されたそれは早朝のことで。
可愛らしくラッピングされたハート型の箱(しかもでっかい)を反射的に受け取って、じわじわとこみ上げてくる喜びを必死に抑え込む。

だって、ハルの腕に下げてある紙袋の中にある皆へのチョコレート、らしきそれはこのハート型の箱の四分の一くらいの大きさで、しかも四角で、ラッピングだって比較にもならない。 つまりは、見た目だけで本命!と主張しているわけで。

「あ、ありがとう・・・」
「いいえっ!そ、その、男の子なのであんまり甘いばっかりだとつらいかと思って、中に砕いたピーナッツが入ってるんですけどっ、えっと、そのっ!あ、味は、ハルが保証しますから!」
「う、ん・・・」

やばい。
こっそりとにやけそうになるその口をそっと手で覆い隠す。
その発言の意味は、つまりは俺のために作ったのだと、そう言っているようなもので。
思考錯誤っぷりとか、手作りだってこととか、それがもう、全部。


(可愛い・・・)

真っ赤になってぷるぷると震えながらそう告げるハルは物凄く可愛くて。
そっちの、紙袋に入ってる方も全部奪ってしまいたかったけど・・・それは、流石に大人げなさすぎるもんな・・・。

例え、了平さんとか武とか隼人とか、何気に仲が良い恭弥さんとか骸にも配られるんだろうけど。
流石にランボやリボーンに渡す奴まで取り上げるわけにはいかない。
・・・というか、リボーンのを取り上げたら殺される。
折角まともなチョコレートを食べるためにビアンキにはイキの良いマグロが食べたいだのなんだのと言って遠ざけているのに。
(その後、バレンタインにあげられなくてごめんなさいと渡されるマフラー等は受け取っているらしいが)

「ありがとう・・・その、うん」
「はひ・・・!」

毎年毎年のことだけど、俺まで赤面して言い淀むのは初めてで。
それに気づいたハルの反応も、どこか今までとは違う。


可愛い。
その耳まで真っ赤になった顔も、潤んでいる大きな瞳も、濡れた唇も。
全部が全部。

触れて、しまいたくなるほどに。

(・・・って、駄目だからっ!!)


「と!とりあえず、あがる?ランボとか、リボーンにも渡しに来たんだろ?」
「はひ!そ、うです!ランボちゃんとリボーンちゃんに、チョコレートのカップケーキを作ったんです!」

腕に下げた箱の中身はどうやら一律カップケーキらしくて、それにまたにやけそうになる口を抑える。
中身を確認しながら、靴を脱いでいるハルをこっそりと監察する。


好きだ。
自覚したのは随分と最近のことだけど。

でも、好きだ。
込み上げてくる愛しさが隠しきれなくて、少しだけ辛い。


言わなくちゃいけない。
この笑顔を、俺が傷つけなくちゃいけない。

本当はリボーンに、なら俺が言うか?と言われたんだけど。
でも、俺以外が傷つけるなんて、それこそ許せない。


「ツナさーん!」
「!・・・え、あ」

後ろから声がして振り返ると、そこにはリビングの入り口で不思議そうにしているハルがいて。
どうやら考え事をしていてずっと玄関先で立ち止まってたらしい。

だめだ。
俺は、ハルの笑顔がみていたい。
純粋なまでに、俺のことを思ってくれているハルの笑顔が。


ただ、見ていたいだけなんだ。





それだけ、なのに



( 恋愛、それは神聖なる狂気である *ルネサンス期の言葉 )